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  • 難しめの文章を読むのも楽しい/板倉聖宣が語ったこと/たのしい教育の発想法&哲学

     このサイトを読んでくれている方たちには、高校受験、大学受験、教員採用試験などを控えた受験生の方たちもたくさんいます。管理職試験を控えている方もいます。
     毎回できるだけ分かりやすい様に記事を綴っていますけど、今回は、たのしい教育研究所の応援団長であった板倉聖宣が、大学の論文にやや近い調子で書いた文を紹介しましょう。
     一般の皆さんも、少し複雑めの文章を読むことで、知的レッスンになりますよ。

    〈たのしい教育メールマガジン〉の古い号からです。
     新しく購読している方たちにとっては初めて目にする内容だと思います。古くからの読者の方たちも、時々サイトに掲げる内容をみて「新鮮に読めます」「新たに学びなおしています」という様な好反応が届きます。
     今回はメルマガ第147号(2015年)の中で紹介した〈教育者のための科学誌入門〉として板倉聖宣(1968年)が語った内容です。

     

     実験が行なわれるためには、それによっていかなる考えの正しさまたは誤りを示そうとするのか、その動機がなければならない。
     そのような動機を提供するものは〈実利的関心〉か〈哲学的関心〉かのいずれかである。
     そのために要する労力・費用よりも、そのことを明らかにすることによって得られる利益のほうがはるかに大きいことが見通されるとき、はじめて人々はその研究に手をつけるであろう。

     しかし「落下法則」などはさしあたってそのことによって得る利益は全くないといってさしつかえない。だから落下法則を明らかにしようという動機は哲学的関心から起こるよりほかにはない。しかもこの研究はそう簡単ではないから「このことがわかったら少しおもしろいだろうな」というようなちょっとした知的関心・趣味的興味から行なわれることはほとんどないということができるであろう。

     

     落下法則のような研究は、アリストテレスの白然哲学の体系のように一つの大きな自然像の真偽性を問うという形ではじめて切実な問題として浮かび上がってくるのである。

     

     地動説か天動説かという問題もそれと同じである。天が動くか地球が動くかという問題は、人々の自然観から人生観にまで影響してくる大問題である。だからこそガリレイはその研究に真剣になったのだし、またローマ法王庁もみずからの権威の保持のために地動説を弾圧したのである。

     

     このように、科学史の主流をなす科学研究の動機となったものは哲学的関心であることが多いが、実利的関心によって行なわれた実験がもとになって哲学的関心が呼び起こされた例も少なくない。

     たとえば、最近筆者が最近調べた例として磁気歪(じきひずみ)の研究をあげることができる。
 磁気歪あるいは磁歪(じわい)というのは、私ゃニッケルなどの磁性体を磁場の中において磁石にすると、その磁性体が歪みをうけて伸びたり縮んだりする現象をいうのである。

     

     筆者がそんな現象にどうして興味を持つようになったかというと、じつは、明治時代の日本の物理学研究の中で、この磁気歪の研究が大きな比重を占めていたからである。 
     東京大学理学部物理学科の外人教師ノットは日本でこの磁気歪の研究を行なって、その研究の伝統を日本にうえつけた。日本の原子物理学の生みの親である長岡半太郎も、長岡と共に日本の地球物理学の開祖であった田中館愛橘(たなかだて あいきつ)も、日本の金属物理学の生みの親である本多光太郎も、みなこの磁気歪の研究から出発して、それぞれの領域に進んだのである。
     このように磁気査の研究は日本の物理学史にとってきわめて重要な役割を果たしたのであるが、筆者が疑問に思ったのは、その磁気歪という現象がいかにして発見されたのかということであった。というのは、鉄やニッケルが磁気をおびると伸びたり縮んだりするといっても、それは偶然に発見されるにしてはあまりにもわずかだからである。鉄は温度を0度から100度にまで上げると、長さ1mのものが1mmほど伸びるが、磁気歪ではそれよりもずっと伸びが少ない。
     そこで、磁性体が磁気をおびると伸びたり縮んだりするということは、いつだれによって発見されたのか調べてみると、それは、ジュールによって1842年に発見されたものであることがわかった。

     

     ジュールというのは、ジュール熱やエネルギーの原理で有名なあのジェームズ・P・ジュール(1818-89)と同一人物である。

     ジュールがこの磁気歪の発見を確認した論文には、かれがどのようにしてこの現象を発見するようになったのか、その事情も具体的に書いてある。
     それによると、この研究は彼の電動モーター改良研究の一環として行なわれたものであった。かれは蒸気機関のかわりに電動モーターを使えば、燃料費なしにいくらでも安い動力が得られると考えて、電動モーターの研究をしていたのであるが、そんなところへ、かれの友人の一人がこんなアイデイアを出したのである。
     もし軟鉄棒に電線コイルを巻いた電磁石に電流を流したり切ったりすると、その度に中の軟鉄棒が仲ぴたり縮んだりするとしたら、その現象を使って新しい動力機関をつくることができるのではないか、というのである。
     軟鉄俸は伸びたり縮んだりするとしても、それはどうせごくわずかであろうが、てこを使ってその伸び縮みを拡大してやればよい。
     電流の点滅は簡単だから1分間に非常にはげしい往復運動を起こさせることもできようというわけである。

     

     ジュールはこのアイデイアを取り入れ、コイルの中の軟鉄棒は、コイルに電流を流すとほんとうに伸び縮みするかどうか、もし伸び縮みするとすればそれはどのくらいで、それは実用になるほどのものかどうか、実験してみたのである。
     つまり、磁気歪は、実利的な関心のもとにあらかじめ予想されていたのであって、ジュールの実験はその存在を確認することになったのである。

     しかし、この歪の大きさは拡大して利用するにしてもあまりに小さかった。ジュールの実験は磁気査の存在を確認することにはなったが、その当初の実利的な目的には合わなかったのである。

     しかし、磁気歪の現象が一度見いだされると、今度はこれが磁気一さらには物質そのものの基本的な性質を追及する上で重要な鍵を提供することになるかもしれない、ということが考えられるようになった。
     そこで多くの人々が磁気歪の正確な測定やその本性の研究に乗り出したわけである。

     日本に来た外人教師ノットもその一人だった。

     

     ところが、この磁気歪の研究は物質の本性の追及に役だっただけではなく、多くの実用的な成果をもたらすことになった。

     本多光太郎が新しい鉄鋼学の分野を切り聞くことができたのも磁気歪の研究のおかげだし、第1次大戦の時にはフランスの物理学者ランジュパンたちは磁気歪を利用した潜水艦探知機を開発した。
     そして現在では、電気的振動を機械的振動に変える場合やその逆の場合に磁気歪が広く応用されるようになっているのである。

    板倉聖宣

     

    受験生に向けて、少し質問を加えてみましょう。

    問1.例えば落下法則は、人間のどういう関心で研究されたと筆者は述べているでしょうか

    問2.実利的関心によって行なわれた実験がもとになって哲学的関心が呼び起こされた例として筆者は何をあげているか

    問3.コイルの中の軟鉄棒はコイルに電流を流すことで伸び縮みしたのか、しなかったのか、それがわかる部分をぬきだしなさい

     これくらいにしましょうかね。

     複雑であっても大切な内容をもっている文章は読む価値があります。
     古文と呼ばれる、今では使われなくなった言葉を含んだ文章も、読みこなす力があると、ものの見方・考え方の広がりが出てきます。それらは人生の豊かさを与えてくれるものにもなります。

     興味のある方は、そういう文章にも触れてみることをおすすめします。

     かといって、難しいだけで内容の深くない文章もたくさんありますから、寺田寅彦の二点を紹介します。クリックすると、その文章をダウンロードできます。

    寺田寅彦

     流言蜚語
    https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card43260.html

     耳と目
    https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card42769.html

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