学力とは何か、学力が高まるとは何か。

時々、学力向上について尋ねられることがあります。
私たちの「学力」に対する考え方ははっきりしています。

「感動」が学ぶ対象への興味関心を呼び、知識・技能が高まる。
それがあって思考力・判断力・表現力を身につけていく。
それを「学力」と呼んでいます。

人間は目的意識的な生き物であって、コンピュータの様に指示命令型で暮らしていく生き物ではないのです。

たのしい教育研究所では、たとえば「ガリレオの落下実験」を例にして「予想がもつ決定的な重要性」を伝える授業をしたり、「将来の夢」をテーマにして「協力するたのしさ」を伝える授業をしたり、いろいろな活動をしています。

しかしそういう大きなものだけではなく、たとえばある試験問題を解く中で、感動的にわかる授業が成り立つこともあるのです。
そういうエピソードを一つ紹介させていただきます。

最近、ある先生と教員採用試験の数学の問題を解いていました。
こういう問題です。

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下の図で △ABCで∠Aの外角の二等分線と∠Cの外角の二等分線の交点をDとします。∠B=50° のとき、∠ADCは何度か?

スクリーンショット 2015-01-19 19.39.21

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角度が1つしか分からないのに、どうやっと求めたらよいのか?
教員採用試験だと、飛ばしてしまうような問題の一つです。

幾つかの解き方のパターンがあるのですけど、
「さっぱりわからないなら勝手に数字を代入しちゃえ」というのが私の数学の解法の一つです。
こうです。

スクリーンショット 2015-01-19 19.50.28

このXとYに勝手に数字を入れちゃう。
例えば、X=60° とする。
するとY=70°です。※三角形の内角の和が180°だから

するとXの外角○1つは 60° です。 ※直線は180°だから

Yの外角✖︎ は110°➗2=55° です。

すると、角Dはどうか?
△ADCで考えてみます。
70°+60°+角D=180° という関係があるので、∠D=180°-60°-55°=65 °
答えは ∠D=65° となります。

めでたしめでたし。

では、Xを90°だと勝手に当てたらどうなるか?
やってみましょう。
△ABCをみると、90+50+Y=180 ですから Y=40°です。
Xの外角○は 45°です。 ○二つで90°だからです。 ※直線は180°だから
Xの外角✖︎は 70°です。 ✖︎二つで140°だからです。 ※直線はⅠ80°だから

すると、45°+70°+∠D=180° の関係があるので、
∠D=180-45-70= 65  つまり65°です。
ほらね。
勝手に当てはめても、答えは出るのです。

Xを10°だと考えても同じです。
興味のある人はやってみてください。

実は「勝手に当てはめる」といっていますけど、「恐るべし三角形の内角の和の法則」からは誰も逃れることができないからこその解法です。
図形の妙、素晴らしさなのです。

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さて、話を計算の前にもどします。
私のやり方で解いた若い先生が「え〜、本当にそうなってる!」と感動の声をあげたのです。
そして、その思いをわたしに直接伝えてくれました。

たとえば、その先生の様に数学の解き方に感動できたら、これは強い。
これを「学力」と呼びたい。

この一つの思い出があるだけで、この後、数学に痛めつけられても、ああいう解き方もあるのだ、ということがしっかりと心に刻み付けられているのです。

そして、何か問題が起きてからカウンセリング的な手法で、というのではなく、授業の中で、こういう感動を子ども達と一緒に体験することができたら、これは強いのです。

私たちの「たのしい教育研究所」は、〈おもしろおかしい教育〉ではなく、感動を伴った教育を目指しています。
何かを批判しているのではなく、確かなものを一歩ずつ広げていくのが「たのしい教育研究所」です。

「たのしい教育」とは何か

rp_ffd588bdc702a97676d95e78089050d6-150x15011111111.png某月某日、沖縄県北部で教育関係の重要なポストにいる方をはじめとして、草の根で教育を応援したいと真剣に考え取り組んでいる方、学校の管理職の方など、まる一日、たくさんの人たちにお会いして、たのしい教育を巡ってお話をさせていただきました。
わたしの教師のスタートはこの地区です。
いつか恩返ししたいと思っている場所です。
そこでいろいろな方達に話をしたことの中心を書かせていただきます。

「知的好奇心」という言葉があります。
本来、人間は学ぶことが好きなのです。
未知なものを探りたいのです。
知らないことを知らないままにしておきたくないのです。
そして子ども達は、その知的好奇心に溢れるものたちです。
しかし「無味乾燥」に感じられるものに関しては、知的好奇心はわかないのです。

教師はすべからく、子どもたちの学ぶ笑顔を求めて、その道を選んだ人たちです。
いろいろ言われているけれど、これだけ優秀な集団で勤勉な集団はなかなかない。

その教師と、大きな知的好奇心を抱えた子どもたちとが合わさって、たのしい教育が実現できないわけがない。
必要なものはまず、「真似ができる魅力的な教材」と「教師の興味関心を高めること」だと思います。

幸い、たのしい教育研究所の取り組みは、確実な成果を上げてきました。
私たちは何かを批判するのではなく、それを可能にする具体的な方法を携えて「夢」とともに語りたい。
その中で、元気な笑顔がゆっくり広がっていくに違いない。
確かなことを元に、それを大切に育てていくのが私たちの研究所です。

たのしい授業と仮説実験授業

明日はメルマガの発行日です。
書くのが大好きな私は、他の締め切りものもありながら、メルマガに没頭しています。

今回の「たのしい教育の発想法」は、元国立教育政策研究所室長の板倉聖宣先生が、1974年8月に四国数学教育研究協議会での講演
「楽しい授業への招待」のあとの質問に答えたものです。もう40年くらい前ですね。
批判的な質問に丁寧に骨太に答えた板倉先生の話が、何度読んでも、さすが、と唸ってしまいます。
少し書き抜いてみます。
たのしい教育の発想法に興味のある方にぜひ読んでいただきたいです。
興味のある方向けに、メルマガ全体の案内をうしろに載せます。

 

質問です。
私は仮説をしていないからそう思うのかも知れないけれども,本当にみんなが楽しいんだろうか。個性があるから「楽しくない」という子どもも出てくるんじゃないだろうか。やっぱり,それは比較の問題で,他の授業と比べて「ちょっと楽しいな」というだけではないのだろうか?,というような気がするのですが…

板倉
仮説実験授業をやって「たのしくない」という子どもが宿命的にいます。
クラスに1人か2人いたりします。
全くゼロということもありますが、3人か4人であることもあります。
しかしそれ以上増えることはないです。
だって,仮説実験授業は子どもが「楽しくないと言えばやってはいけない」のですから,仮説実験授業は〈原理的に楽しい〉のです。
定義によって「たのしい」ことは明らかです。
だから「仮説をやってたのしくない」という人がいたら,
「じゃあ,やめてください」
と言うだけです。

ただやめる前に一つだけ,
「先生は〈たのしくない〉と言うけど、子どもたちに聞いて確かめましたか?」
と尋ねます。

仮説実験授業は,子どもたちに対しての一切の押しつけを排除するのと閉じように,先生に対しても押しつけを排除しています。

仮説をやらない人は悪い教師だと脅かすようなことは一切しません。
〈仮説実験授業がいい〉と,思った人がやればいいので,「いいと思わない人がやるのは何事だ」ということしか言わないです。

〈個性ではないか〉という話がありましたが「仮説実験授業が嫌いだ」という個性はないですよ。
「人間」としてのどうしても必要な共通のわくがあるからです。
「予想を立てるのが嫌いだ」というのは,優等生根性があればそうなります。みんなの前で外れる心配があるからです。
しかし〈予想を立てるのが本来的に嫌い〉ということはないでしょう。
予想を立てなければ,人間として生きていかれないですから。

「人聞は一人ひとり個性が違うから個別指導をしよう」という考え方がありますが,個性が違うから一緒に指導するのが当然なのです。
個性が違う人聞がいるから,うまく社会が成り立っているのです。
個性が違ういろんな人聞がいるから集団的な教育が大事なのであって,それを「集団教育がうまくできない」からといって個別指導に走るのはごまかしに過ぎないのです。

仮説実験授業は「できたところではうまくいっている」という形で提案しています。
だから私どもは「ウソだと思って仮説実験授業をやってくれ」という気はありません。
「本当かも知れない」と思う人がいたら,試しにやってみてください。
授業するにも「仮説実験」なのです。

 

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