「貧困家庭の問題について何かアイディアがありませんか」という相談が来ることがあります。たのしい教育研究所としてのアイディアはいくつもあって、その具体的なお話をさせて頂いているのですけど、それなりに予算がかかることなので、実現に向けては行政内部の本気の取り組みが必要になると思います。今回はその貧困問題について、少しだけですけど、書いてみようと思います。
私が教師をしている頃から、貧困問題は肌身で感じていました。具体的な話は避けますが、保護者の方からの相談で感じるだけでなく、その数よりはるかに多く〈今月の給食費をどう捻出したらよいだろう〉と困っている方たちがいるのです。個人的に知り合いの行政や議会にいる方たちに〈まず給食費を無料にしましょうよ〉という話をずいぶん以前から繰り返して来ました。やっと最近は、そういうながれをみせて来ている市町村もあって喜んでいます。
貧困問題というとユニセフのコマーシャルなどにも出ている様にアフリカなどの地域をイメージする人も多いことでしょう。
日本はどんどん豊かになって来ている感じがあって、「子どもの今月の給食費をどうしたらよいだろうか」と悩んでいる人たちがたくさんいることが不思議に思えるかもしれません。
貧困家庭と言われていても携帯電話があったり、車があったりと、昔と比較すれば遥かに豊かです。わたしが子どもだった時代には、こんなに車は走っていませんでしたし、冷蔵庫も必要最小限の小さなものでした。子ども達が電話を個人用として持つなんて考えられませんでした。
この写真は1960年代の庶民の家の写真です。
その頃の暮らしと比較すると、今、貧困問題がとりざたされていることを不思議に思う人もいると思います。
何をもって貧困というのか、その定義はいろいろなものがあります。
その中で、OECDの「世帯人数を考慮した可処分所得(等価可処分所得)が貧困線に満たない世帯に属する人」を〈相対的貧困〉として定義していることが多いようです。つまり、その社会の中で、その家庭の所得がどのくらいの位置なのか、という相対的な見方なのです。
計算的には〈全世帯の可処分所得を1人当たりに換算して、その所得額を低い順から並べ、中央値の半分に満たない人がどれいくらいいるのか〉で数値化します。
数年前のデータで説明する資料しか手元にないのですけど、厚生労働者の国民生活基礎調査(2012年)を元にすると、122万円を下回る水準が〈相対的貧困〉です。
計算すると、わたし達の日本では、〈相対的貧困〉の割合は16.1%
6人に1人が相対的貧困にあえいでいる状況だということになります。
先進国クラブとされるOECD加盟国35ケ国で、最も相対的貧困率が低い国はアイスランドです。〈相対的貧困〉の割合は4.6%に過ぎません。
韓国は14.6%、日本より相対的貧困率は低いのです。
ギリシャの15.1%よりも日本の貧困率が上回っています。
日本の貧困率は
イスラエル18.6%
アメリカ17.2%
トルコ17.2%などと並んで高水準です。⇒ 参考
つまり日本では〈6人に一人が年間所得122万円以下の家庭に所属する〉ということが貧困問題の数量的データです。
では、その貧困問題にどのように取り組んでいけばよいのでしょう。
〈ベーシック・インカム〉つまり〈年齢・性別等に関係なく一律に現金を給付する仕組み〉を検討することなど、政治の力で取り組むことはたくさんあるでしょう。
しかし、たのしい教育研究所は〈教育〉のエキスパート集団です。政治システムよりも根本的に解決するのが〈教育〉であると考えています。
話を簡略化してみましょう。
〈教育〉という重要な視点で〈貧困問題〉に対する取り組みを整理すると
A.子ども達がもっと学びたいと感じてくれる様な教育を提供するシステム
B.もっと学びたいという子ども達が〈進学〉で差別されることのないシステム
C.賢く学んだ人たちがその才能を活かす仕事につくことができるシステム
D.人生のいろいろな場面で〈学び直したい〉と感じた時に〈たのしい教育〉を提供できるシステム
の4つを構築することが重要であると考えています。
Aが何よりも根幹となり、BそしてCDの順に展開し、それらが循環していく社会ができた時、〈貧困問題〉を含めて他のいろいろな問題を解決できる様になっていくでしょう。
A.子ども達がもっと学びたいと感じていくれる様な教育を提供するシステム
を抜きにしては、BCDは本質的には機能しません。
本人は特に学びたいという意思がないのに、世間体や周りが進学するから自分も進学するということでは、社会の問題を解決できる様な学びには繋がりません。そういう学びは高く見積もっても〈現状を理解する〉くらいの学びとなり、新しい社会を切り開くようなものとはならないでしょう。
その意味で〈学ぶことがたのしい・もっとこういう授業を受けたい・この世界の謎を知りたい・解いてみたい〉という様な子ども達を育てることは、とても重要なことだと思っています。
先日の〈グッジョブフェアー〉でも、そういう感想をたくさんもらうことができました。
この写真は最近作成した「たのしい建築学入門」の問題の一つにグループでチャレンジしているところです。
単におあそびをしている様に見えるかもしれませんが、〈基礎部分〉と〈主要構造部分〉という建築の重要なベースとなるものを学んでもらっています。
はじめは行儀よく座っていたり、この子は友達と遊ぶ予定があったのに〈保護者の方に「行こう」と言われて参加したのかも〉 という様な座り方をしている子たちもいたのですけど、どんどん前のめりになって行きました。
姿勢自体がみるみる前のめりになっていき、そろそろ次のプログラムにすすみましょう、と言ってもなかなか耳に届いていないほどでした。
この写真の手前の子ども達だけでなく、その後ろ側にいる子ども達の姿勢も御覧ください。
そうやって〈学ぶ事が好き〉になって来た子ども達が、さらに上級の学校に行きたいとなって来た、それがBです。
その時「本当にその子が学ぶ熱意を持っているのか否か」それは、担任の先生が書く調書を工夫することと、たのしい教育研究所のわたし達に面談をさせていただければ、かなりの確率で見分けることができます。
今は特に進学する気がないという子ども達でも人生のある時に〈また学びたい〉と感じることもあるでしょう。それは仕事上の場合もあれば、子どもの頃学んだあのたのしさをもう一度味わいたいという場合もあるでしょう。
それがDです。
ABで学んだ子ども達は、その力を発揮できる職場で思う存分活躍してもらいたい、それがCです。
たのしい教育研究所は、BCDつまり
B.もっと学びたいという子ども達が〈進学〉で差別されることのないシステム
C.賢く学んだ人たちがその才能を活かす仕事につくことができるシステム
D.人生のいろいろな場面で〈学び直したい〉と感じた時に〈たのしい教育〉を提供できるシステム
の根幹となる重要な「A」そして「D」の専門チームです。
ADがあってこそBCがいきるのです。
それらを構築する具体的アイディアは、本気で取組みたいという有志と感じた時にお話できると思います。
行政にいる皆さん、議会で活躍している皆さんが、その重要性を感じてくれるためにも、読者の皆さんがいろいろな処で「たのしい教育をもっと受けたい」と声を上げてくださればよいのにと思っています。
社会が進歩していくには時間がかかります。
しかし〈たのしい教育研究所〉はその進歩を確かに感じながら、元気に活躍しています。
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