板倉聖宣(仮説実験授業研究会代表)アーカイブス 沖縄ファースト講演「人生を豊かにするために たのしく学ぶ(3)」

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1989仮説実験授業研究会 板倉聖宣 沖縄ファースト講演
「人生を豊かにするために たのしく学ぶ(3)」
会場 沖縄市 レストラン サザンパレス
文責 たのしい教育研究所 喜友名 一

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 小三から小四までは役立つ。小五くらいからは、ほとんど役立たないといってよい、生活的に役立たない知識がたくさん出てきます。

 現代は科学の時代です。電気の時代であり、原子力の時代です。そうすると、私たちはみんな電気の事、原子の事をしらなければならないのでしょうか?

一時はそういうふうに思って心配して「勉強しなきゃならないなぁ」とがんばった人たちもいると思います。でも結局は電気のことをよく知らなくては生活できなかったり、原子力について知らなくては生活できない、ということはなかったでしょう。

私どもの世代は、大人になったころテレビというものができました。テレビというものを扱うには電気というもの電子工学というものをそうとう知らなければならないだろうと思ってビクビクしていたら、何の事はない、スイッチをいれればいいだけのことでした。

私は基礎学力が無いもんですから、旅行に行くとテレビをつけられないことが多かったものです。いろんな種類のテレビがあるんですよ。テレビによっては引っ張るやつと押せばいいやつと右に回すやつと、へんな所に回すやつといろんなものがあるんです。

テレビというものはうんと基礎的なものだから、基礎学力に入るのか?

私は電気工学は普通の人よりズーッと知っているんだけども、そんなものはテレビを観るためとか、冷蔵庫を使うためとかに、ほとんど役立たちません。だいたいからして、メーカーは「この機械は中学三年程度の学力を持っていなければつかえませんよ」という機械をつくったら売れないんだという事をよーく知っているんです。

<ボタンを押しなさい>とか<コンセントを差し込みなさい>とかいうことがわかったらいいのです。お客さんにそれ以上の学力を要求したら商売は成り立たないという事がわかっているのです。メーカーは「科学についての知識はいらない」ということを前提にして機械を作っているのです。ほとんど全ての機械はそうです。「電子レンジを買うんだけど、私にも扱えるのかしら」っていう場合には、それは電気工学について知っている人に聞いているのではない。そんなこと知ったってしょうがない。電子レンジを扱って何か料理をしたことのある人に聞くのです。

だから学校の理科教育がちゃんと一人前に分からなければ、この電気の時代・原子の時代に生きていかれないということは無いのです。これはハッキリしていますね。

そうするとますます〈生活に役立つ学力っていうのは小学校三年か四年の内容でいいじゃないか〉という見方をしてみることも大切ではないかという気持ちになってきます。

いろんな学力調査をすると、その事をハッキリ裏付けることが出来ます。小学校四年で教えたことがらを、五年生、六年生、中一、中二・・・というぐあいにテストしていくわけです・・・そうするとどういうようになるか?

小学校四年で教えた事柄について、一番よくできるのは小学校四年です。中学三年が出来るんじゃないんです。

中学一年で教えたことが一番よくできるのは中学三年生かというと、そうではない、中学一年生なんです。

ただ一つ例外があります・・・「漢字の読み・書き取り」です。漢字だけはだんだんと学力が上がるんです。使うからです。手紙を書いたり本を読んだりするときにつかいますね。

けれど、数学の学力とか、理科の学力とか、社会科の学力とかは、みんな教わったときが一番よくできるんです。それでも100%はできませんよね。60%できて、あとは50%、40%・・・と下がっていく。

つまり「使っていない」という事です。漢字なんかは使うから上がっていくでしょう。

そういうふうに考えると、全ての人が使うとか役立つという意味で役立つ知識は、小学校四年生くらいまでです。だからそこまでは、子どもたちは学習意欲があるし、教え方を工夫してうまく教えられれば、たいへん良い教育が成り立つ。しかし、小学校五年生以上になるとそう簡単にはいかない。これは、人と競争して勝って、人を軽蔑する能力をつけたいと思う人なら勉強するかもしれないけれど(笑)、非常に真面目な子どもたちは勉強しないよ。

じゃあそういう人たちは、こういう人を軽蔑する勉強をしなきゃいいのか?

「しなくてもいい」というのが一つ有ります。

私はしなくても良いと思います。

「しなくてはならない」とは思わない。

しかし実は、小学校二年生だろうと五年生だろう何年生だろうと、もし本当にたのしく授業してくれたら、これは<役立つか役立たないか>なんて関係なく、新しい世界を開いてくれるんです。

例えば原子というものがある。

<水の原子>を一億倍すると・・・いや一億倍じゃあ小さすぎるから五億倍にしましょう・・・こういう感じの水の分子、こういうものを知ってなきゃ困るかというと、これ困りませんよね。だってほとんどみなさん知らないんだから。

どっかで見たことがあるかもしれないけど、あまり知らないですよね。

例えば「水の分子はこういうかっこうしているんだよ」っていう事を今私たちは小学校二年生くらいから教えちゃうのですけれども、これたのしいんです。子どもたちが「赤パンツだ」なんていってね。

Water_molecule

これが酸素の酸素の分子(赤2個)です。

index

これが一酸化炭素(酸素1コ)です。

一酸化炭素

これが二酸化炭素(酸素2コ)です。

CO2

真ん中を黒く塗ったつもりですけれどあまり黒く見えませんね。黒板といっているけれど、これ本当は青板ですから(笑)。

たとえばこういう事は中学校か高等学校で教えるのですけれど、小学校二年生や一年生に教えることできるんです。だって「あの人、花子さんて名前だよ」「あの人、太郎さんて名前だよ」って教えること出来るでしょう。

同じように「これ酸素さんて名前だよ」「これ水という名前だよ・・・水っていうのはこんなふうに集まってできているんだよ」ってね。

こう教えると、みなさんがあまり考えることが出来なかった創造的な考えができるようになるんです。

「先生、先生、これ水っていってるけど、ほんとの名前は水じゃないんでしょ・・・これは二水化酸素っていうんでしょ」
なんていう子どもたちもでてきます、小学校二年生か三年生で。

そういうのがわかってくると、そういうのを知らない人をバカにしようというんではなくて、たのしいのです。

しかもこういう原子分子を知っていると、電子レンジはなぜ料理ができるのかという事がわかる。本来はお皿なんか熱さないで中の料理を熱してしまうんですね。なぜかというと、電子レンジというのは<電気の波>を起こす。電気の波がこう来ると、水の分子は+と-に電気が別れているものですから、こうゆすぶられる。例えばご飯の中には水の分子が入っていますから、その水の分子がゆすぶられて、中がこすれていって中から温まっちゃう。そうやって電子レンジは温まるんですね。こういう二酸化炭素の形のように一列に並んでいると、電子レンジでゆすぶられないので温まりません。

こういう事をぜんぜん考えてもみない人が電子レンジを使っているわけですけれど、こういう事を知って、いろいろ考えていくと、
「ああ、なんか世の中って理解できるなぁ」
という感じになってきます。まあこの事だけをしっただけでは大したことではないかもしれないですけれど。

要するに学校で教えているのは「読み書きそろばん」という事です。読み書きそろばんは、江戸時代の頃から、知っていたら都合が良いぞという事だった。役立つという事はわかっていた。それが今でいえば小学校三四年生までだ、と。

つづく

2016/08/26 板倉聖宣(仮説実験授業研究会代表)アーカイブス 沖縄ファースト講演「人生を豊かにするために たのしく学ぶ(3)」 はコメントを受け付けていません。 仮説実験授業 板倉聖宣

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