新型コロナウィルスについて書いたところ、いっきゅう先生のおかげでパニックにならずにすみました、子ども達にもおちついて、慌てないようにという話をすることができました、という感謝の言葉が届いています。
そんな中、〈どういう時にどういう人たちの声を専門家の指針とすればよいのでしょうか〉という長いメールが届きました。教育の専門家といった時、相反するする意見も乱立していますから、どっちをとるか迷うというのです。
もっとも怖いのは、一人ひとりが自分の頭を使って判断することをやめて、画一的な流れのままにすすんでいくことです。今回は、判断する時に何を指針とすればよいのかについて書いてみたいと思います。
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私は登山も好きで、いろいろな山を歩いてきました。
道を踏み違えて身の危険を感じたこともあります。
たとえばグループで山に入り、分岐した小道を右に進めば良いのか左に進めばよいのか迷った時どうすればよいのでしょう。
スマホなどで確認できるなら、それは一般の人たちに正しいルートを指し示せる確かな情報ですから、それが最もよいでしょう。しかし、そうなっていないから迷うわけです。
多数決で決めたらよいのでしょうか、それとも強い意見をいう人に従えばよいのでしょうか?
素人が多ければ、多数決は頼りになりません、責任の所在が複数に分散されるくらいでしょう。
口調が強い人が正しいとか、年上が正しいということは考えられません。
こういう時に頼りになるのは〈経験〉、その山を歩いたことのある人物の判断です。
メンバーの中に、このルートを歩いた経験のある人がいれば、それが頼りになります。
空の雲の様子を見て「これから雨になる可能性があるから、少々時間がかかるけれど木々の深いところに向かって進もう」とか「勾配のなだらかなところを行こう」というような判断ができる人物です。
教育の場合は困ったことに、自分は専門家だと名乗ればよいので、経験者がそれぞれ自分の経験を元に意見を出し合っているということでしょう。
経験よりも確かな指針があります。
最も頼りになるのは〈科学的な見方考え方〉です。
教育方法に関して〈科学的〉だといえるのは、「仮説実験授業」くらいでしょう。〈研究仮説〉という言葉を用いて科学的研究をすすめているように見える授業も多いのですけど、私が見る限りでは仮説になっていないものがたくさんありました。検証の方法や解釈にすすむと、目も当てられなくなります。
残念ながら教育の世界では科学的な判断というのはまだまだ先で、経験則によると、というレベルが続くでしょう。
では医療の世界ではどうでしょう。
怪しいものも溢れているとはいえ、治療薬の開発を含めはっきりと科学的な研究が根幹となっています。
先ごろ紹介した「一般社団法人日本感染症学会」「一般社団法人日本環境感染学会」が出したレポートも、科学的な実証データです。
はじめの部分他いくつかを載せてみましょう。下線は私です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)水際対策から感染蔓延期に向けて―(2020 年2 月21 日現在)一般市民の方々へ ―共有してほしい情報と行動―
1. 感染症の臨床的特徴が明らかになってきました。
本ウイルスに感染を受けた人の多くは無症状のまま経過するものと思われます。
感染 を受けた人の中で潜伏期間(1〜12.5 日)ののち一定の割合で発熱・呼吸器症状(咽頭痛、 咳)などの感染症状が認められるようになります。
発熱や呼吸器症状が 1 週間前後持続す ることが多く、強いだるさ(倦怠感)を訴える人が多いことが特徴とされています。
いわゆ る風邪、あるいはインフルエンザであれば、通常は 3〜4 日までが症状のピークで、その後 改善傾向がみられますが、新型コロナウイルス感染症では症状が長引くことが特徴です。4 日を過ぎても発熱が続く、特に1週間目においても発熱が続く場合、息が苦しい、呼吸器症 状が悪化する、などを認めた場合には肺炎の合併が疑われます。すぐに帰国者・接触者相談 センターにご相談ください。
2.1 週間以内に症状が軽快しそうであれば、自宅での安静で様子をみます。 新しく出現した感染症の場合には、しばしば重症例だけが取り出されて解析されるこ とになります。しかし実際には、感染をうけても無症状~軽症の人が何倍も多く存在すると 考えられています。新型コロナウイルス感染症においても同様のことが考えられます。おそ らく風邪様症状から軽い上気道炎ぐらいの軽症例が多数存在するものと思われます。この ような症例は1週間で症状が軽快します。特に治療の必要はなく、自宅で安静にしておくこ とで十分です。ただし、家族など身近の方への感染に気を付け、家族と接するときのマスク 着用と、こまめな手洗いや手指消毒を心がけましょう。
4.高齢者・基礎疾患を有する人は外出を控える
人込みの中に入らない。 新型コロナウイルス感染症は高齢者や基礎疾患がある人で重症化しやすいことが明ら かとなっています。幸いにも、小児においては重症例が少ないことが報告されています。重 症化につがなる基礎疾患としては糖尿病、心不全、腎障害・透析患者や、生物学的製剤、抗 がん剤、免疫抑制剤投与患者などがあります。
また妊婦においても上記患者と同様に本ウイ ルス感染症にかからないような対応が必要になります。人が多く集まる場所では、本ウイル スを持っている人と遭遇する機会が高まります。今回問題となったクルーズ船や老人介護 施設・病院などは高齢者や免疫不全患者が多数集まる場所です。新型コロナウイルスの持ち 込みには十分注意しなければなりません。
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/covid19_mizugiwa_200221.pdf
ニュースによると、今回の突然の休校要請はによる混乱は、専門家の科学的な見解に基づいたというのではなく、政治主導によるものの様です。会議に参加した感染症の専門家も、全国一斉休校という話題は出ていなかった、と話していますし、政府も「政治判断です」と語っています。
〈新型コロナウィルス対策〉についていえば、登山の時、その山を登った経験者にあたるような人たちはいないにしても、感染症の専門家集団がいるわけですから、まずはその専門家集団の出してくれる科学的な根拠を拠り所にしていく必要があります。
はじめの質問の方は、教育の世界の様に、体罰がいい悪いで議論になる様な状況をイメージして、誰が専門家なのか分からないと迷っているのでしょう。たしかにそうです。
しかし医療という科学的研究が進められているものを一緒にしてはいけません。
そこで出された科学的なデータをたぐることで、より確かな行動に近くことができます。
怪しい治療法の様なものを相手にするのではありませんよ、はっきりとした科学的なデータ、科学研究に基づいて示してくれているものに頼るのです。1億人の祈りより1gの抗生剤がはっきりと効果を示してくれるのです。
科学的な研究にもとづいたものが、相反する結論を出すことはほぼありません。一時的にそういうことが起こっても時間とともにどちらが正しいかはっきりします。
たとえば「この病気にAという薬が効くのか効かないのか」という場合、〈効くし効かない〉という様なわけのわからない結論は出てこないのです。〈こういう状況なら何%レベルで効果がある〉という様なはっきりとした結果を出してくれます。
科学は、ごく普通の人たち・私たちが最も頼ることのできるものです。
今回の突然の休校要請は残念なことに医療の専門家の科学的な研究に従ったものではありませんでした。結果的に休校という選択肢を取るにしても、教育の専門家、保育の専門家、保護者の生活をシュミレートできる専門の人たちの意見を聞いてすすめていく必要があったはずです。
今回のことからもしっかりそれを学んでいきたいものです。
そしてそれぞれの学校でも、何か突然の決定を下す時には、政治的決着、力による決着ではなく、専門家の科学的なデータを元に丁寧にすすめていく必要があると思います。
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