蝶の幼虫からガンの薬を作っている、という話をすると、それはいかにも怪しげな薬だろうと思うかもしれません。
しかしけっこう信頼性のある研究なのですよ。
そして私が好きなエピソードの一つです。
夏休みに入って、このサイトを読む小・中学生が増えてきましたので紹介させていただきます。
「完全変態(かんぜん へんたい)」という言葉を聞いたことがありますか?
英語では「メタモルフォーシス」といいます。
「チョウやセミ、カマキリは完全変態なのか不完全変態なのか」
という様に、学校の先生になるための試験にも出題されることがあります。
チョウやアリ、カブトムシなどは完全変態します。その仕組みは、とても不思議な現象の一つです。
地をゆっくりはって動くアオムシが「サナギ」となり、空中を舞うチョウにかわるのですから、驚きです。いったい、あの青虫の中のどこに、チョウの羽の部分がかくれていたのでしょう?
わたしも子どもの頃、とても不思議に思って観察した一人です。
完全変態の仕組みは多くの昆虫たちがとった生きるための方法ですが、科学者たちは今も、サナギの中で何がどう変化しているのか、とても興味をもって研究しを続けています。
サナギの時は体の中がドロドロのクリーム状になっているという話を聞いたことがある人もいるかもしれません。最近のマイクロCTというスキャン技術で、昆虫たちの体を解剖せずに調べることができる様になり、かなり詳しいことがわかってきました。これがそのマイクロCTによるスキャン画像です。
サナギの時、完全変態の段階で、成虫になるために必要のない部分を殺してしまいます。そしてチョウという新しい体に必要なものを作り出しているのです。
細胞が自らを殺していまう働きをアポトーシスといいますが、サナギの中でそれがどんどん起こっているのです。
これを〈ガン治療〉に使えないかと考えた科学者が、ガンの研究者であり、同時にチョウが大好きだった杉村隆さんでした。
杉村さんはこう考えました。
「チョウは、完全変態、つまり幼虫とサナギと成虫の間でまったく形が変わる。これだけの変化をするには細胞が入れかわるわけで、そのためには細胞が死ななければならないはずだ。そこで、アオムシの中に、この細胞は殺し、この細胞は殺さないという調節機構があるに違いない」
杉村さんはこういう実験をしてみました。
幼虫の尻尾を切ると0.1ccほどの青い液体が出てきた。この中に調節のための物質があるだろうと思い、数匹分を遠心分離器にかけたら透明になった。この液体を培養していた胃がんの細胞にちょっと落としてみたのです。
さて、どうなったと思いますか?
予想
ア.がん細胞が死んだ
イ.特に変化はなかった
ウ.がん細胞が増えてしまった
どうしてそう思いましたか?
後半につづく