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ファインマンと原子論/科学の見方・考え方

すでに他界していますが、ファインマンはわたしが注目している科学者です。
1965年に朝永振一郎らと一緒にノーベル物理学賞を受賞しています。

先月、このサイトにも書いています。  ⇨  https://tanokyo.com/

thumbnail.image.shashinkan.rakuten.co.jp

 わたしが教師の時にいろいろコピーして残してあった資料から、彼について書かれた文章が出てきました。

紹介させてください。

元国立教育政策研究所室長・現日本科学史学会会長 板倉聖宣が2002年10月に
四条畷学園小学校で語ったものです。

読みやすくする為に少しだけ喜友名が手をいれてあります。

    今度,私は『たのしい授業』で,〈原子論を中心とした科学と社会の歴史〉と,長ったらしい表題の連載をやっていますが,始めにこれは〈科学の歴史〉だったのです。
それで,あの連載が始ってから,「これは科学と社会の歴史になる」というので,〈社会〉というのを補ったのです。
なぜならば,原子論というのは科学の最も中心的な話題だからです。そして,それはほとんど社会現象と連動しております。

昨日も言いましたけれども,原子論はルネッサンスが起こると変わります。ローマが滅びると変わります。ギリシャが滅びると変わるし,ギリシャが勃興しても変わります。

だから,科学の歴史と同時に社会の歴史なのです。だから,これはもう初めから総合学習なのです。総合的な学習だから,そういう授業は楽しくなるのです。
「原子論が全ての科学の中心であった」と言うのが,私の若いときからの一貫した主張でありますが,その私にとってとても都合のいい発言をしている人がいます。
みなさんの中にもご存知の方がたくさんいると思うのですが,ファインマンさんです。日本の朝永振一郎さんと一緒にノーベル賞を受けた人です。

日本人はアインシュタインが好きな人が多いのですが,それと同じぐらいファインマンさんは人気があります。アメリカ人の物理学者でありますが,亡くなってしまいました。反体制的な活躍もしていてノーベル賞も辞退しようとした人です。

ファインマンさんを教育にかかわる話を一つだけご紹介しておきますが,とても見事な話が紹介されています。一番初め日本で出たファインマンさんの本は『物理法則はいかにして発見されたか』というので,私と共著のある江沢洋さんが訳しているのですが,江沢さんがファインマンさんと面識があるから序文に書いているのです。

ファインマンさんは子どもが好きで,家族連れでピクニックに出かけた時にグランドで子どもたちがかけっこをしていた。そこに4才位の子どもが「もし僕が勝ったら,お金をちょうだい」と手合わせを申し込んできたのですね。「よし!」という話になります。

みなさんならどうしますか?
小さい子どもと一緒にかけっこするという時に,ほとんど全ての人,私なんかもそうでありましたが,真剣には走りませんね。

子どもに合わせて,子どもが勝つか負けるかぎりぎりのところで子どもと速度を合わせます。日本の大人は協調性がいいのですね。子どもと合わせて,子どもを喜ばせたり,悔しがらせたりして,その時の様子でいい加減に走ります。初め子どもはそんなことに気が付かなかったりしますが,すぐに「あの,おじさんは,適当にしか走ってない」と気が付きます。わざと勝たせてくれたとか,わざと遅くしたとか,それが場合によっては子どもには屈辱です。

 

ファインマンさんはそういう時にどうしたのか?

「よーし,かけっこだ」という時に,子どもは走るのですよ。ファインマンさんは後ろ向きになったのです。後ろ向きになってかけっこをすると,子どもに勝てるとは限りません。だから真剣に走らないと子どもに負けてしまいます。それで200mも腕を背泳をするみたいに大きく振って後ろ向きで走り続けて,大きな息をしながらゴールしたと言うのですね。子どもには負けたのです。

ファインマンさんはそういうことが出来て,真剣に子どもと付き合うことの出来る人なのです。

アメリカで飛行機が落ちたり,ロケットの打ち上げが失敗をしたりすると事故調査委員会が出来ます。その時にファインマンさんはその事故調査委員の一人になります。彼はガンであるけれども,そういうのを引き受けるのです。

 

このファインマンの本が岩波書店から翻訳で出ています。こんな大きな厚い,『ファインマン物理学』という本です。

日本では岩波書店から原著は3冊だったのを5分冊にして出しています。

これは大学の教科書です。

こんなに大きな本でこんなに厚いのですから日本の学生たちは読めません。しかし,アメリカではそんなのは当たり前なので,どの大学の教科書もみんな厚いのです。

その本の「力学」の部分が日本語訳はもっとも長くなっています。その力学の本の一番前に「原子論」のことが書いてあります。そこには,

「もしも,今何か大異変が起こって科学知識が全部なくなってしまい,ただ一つ文章だけしか次の時代の生物に伝えられないと言うことになったら,最小の文章で最大の情報を与えるにはどんなことだろうか?」と。

 

みなさんはどう思いますか?

 

力学の教科書だから,「力学を伝える」と書いてあるかと言うと,そうではありません。「私の考えでは原子仮説だろうと思う」と,人類の最大の発見は原子論であると。

「原子がこの世にはあって,それによって出来ているということを次の時代の文明を持った人たちに伝えていく」と,最も短い言葉でそのように書いています。

 

あの,ファインマンさんの力学というのは,そういう脱線をするのです。「私はそう思う」と,ファインマンさん個人が出てくるのです。「物理学者はみんなこう考えている」なんて,そんな世論調査みたいなものではありません。ファインマンさんみたいな創造的な人は,「私はそう思う。みなさんはどうか」という形で書いているのです。

だから「原子論というのが最も人類の財産だ」と,これは私の主張でありますけれども,ファインマンさんの主張でもあります。それでファインマンさんは,現在の科学者の中で最も影響力がある人です。

以上

 

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