たのしい論文読解で寺田寅彦の「流言蜚語」

 感動と共に文章を読んでいった経験こそが読解の力を高めます。無味乾燥な文章をいくら読んでも生きた力にはなりません。たのしい教育研究所の論文特訓は、独自の教材を利用してすすめていますが、今回の特訓では、寺田寅彦の「流言蜚語」を取り上げました。私が学生時代に強く影響をうけた文章の一つで、科学的な見方・考え方の重要性を語った名文です。昔の言葉でもあるので、読むづらいところもありますが、この中身の重要を何度か味わううちに、その違和感もなくなっていくと思います。ぜひ、繰り返して読んでみてください。

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 著作権も切れていて青空文庫で公開されていますから、ここに掲げたいと思います。

 

流言蜚語

寺田寅彦

 長い管の中へ、水素と酸素とを適当な割合に混合したものを入れておく、そうしてその管の一端に近いところで、小さな電気の火花を瓦斯ガスの中で飛ばせる、するとその火花のところで始まった燃焼が、次へ次へと伝播して行く、伝播の速度が急激に増加し、遂にいわゆる爆発の波となって、驚くべき速度で進行して行く。これはよく知られた事である。
 ところが水素の混合の割合があまり少な過ぎるか、あるいは多過ぎると、たとえ火花を飛ばせても燃焼が起らない。尤も火花のすぐそばでは、火花のために化学作用が起るが、そういう作用が、四方へ伝播しないで、そこ限りですんでしまう。
 流言蜚語の伝播の状況には、前記の燃焼の伝播の状況と、形式の上から見て幾分か類似した点がある。
 最初の火花に相当する流言の「源」がなければ、流言蜚語は成立しない事は勿論であるが、もしもそれを次へ次へと受け次ぎ取り次ぐべき媒質が存在しなければ「伝播」は起らない。従っていわゆる流言が流言として成立し得ないで、その場限りに立ち消えになってしまう事も明白である。
 それで、もし、ある機会に、東京市中に、ある流言蜚語の現象が行われたとすれば、その責任の少なくも半分は市民自身が負わなければならない。事によるとその九割以上も負わなければならないかもしれない。何とならば、ある特別な機会には、流言の源となり得べき小さな火花が、故意にも偶然にも到る処に発生するという事は、ほとんど必然な、不可抗的な自然現象であるとも考えられるから。そしてそういう場合にもし市民自身が伝播の媒質とならなければ流言は決して有効に成立し得ないのだから。
「今夜の三時に大地震がある」という流言を発したものがあったと仮定する。もしもその町内の親爺株の人の例えば三割でもが、そんな精密な地震予知の不可能だという現在の事実を確実に知っていたなら、そのような流言の卵は孵化らないで腐ってしまうだろう。これに反して、もしそういう流言が、有効に伝播したとしたら、どうだろう。それは、このような明白な事実を確実に知っている人が如何に少数であるかという事を示す証拠と見られても仕方がない。
 大地震、大火事の最中に、暴徒が起って東京中の井戸に毒薬を投じ、主要な建物に爆弾を投じつつあるという流言が放たれたとする。その場合に、市民の大多数が、仮りに次のような事を考えてみたとしたら、どうだろう。
 例えば市中の井戸の一割に毒薬を投ずると仮定する。そうして、その井戸水を一人の人間が一度飲んだ時に、その人を殺すか、ひどい目に逢わせるに充分なだけの濃度にその毒薬を混ずるとする。そうした時に果してどれだけの分量の毒薬を要するだろうか。この問題に的確に答えるためには、勿論まず毒薬の種類を仮定した上で、その極量を推定し、また一人が一日に飲む水の量や、井戸水の平均全量や、市中の井戸の総数や、そういうものの概略な数値を知らなければならない。しかし、いわゆる科学的常識というものからくる漠然とした概念的の推算をしてみただけでも、それが如何に多大な分量を要するだろうかという想像ぐらいはつくだろうと思われる。いずれにしても、暴徒は、地震前からかなり大きな毒薬のストックをもっていたと考えなければならない。そういう事は有り得ない事ではないかもしれないが、少しおかしい事である。
 仮りにそれだけの用意があったと仮定したところで、それからさきがなかなか大変である。何百人、あるいは何千人の暴徒に一々部署を定めて、毒薬を渡して、各方面に派遣しなければならない。これがなかなか時間を要する仕事である。さてそれが出来たとする。そうして一人一人に授けられた缶を背負って出掛けた上で、自分の受持方面の井戸の在所を捜して歩かなければならない。井戸を見付けて、それから人の見ない機会をねらって、いよいよ投下する。しかし有効にやるためにはおおよその井戸水の分量を見積ってその上で投入の分量を加減しなければならない。そうして、それを投入した上で、よく溶解し混和するようにかき交ぜなければならない。考えてみるとこれはなかなか大変な仕事である。
 こんな事を考えてみれば、毒薬の流言を、全然信じないとまでは行かなくとも、少なくも銘々の自宅の井戸についての恐ろしさはいくらか減じはしないだろうか。
 爆弾の話にしても同様である。市中の目ぼしい建物に片ッぱしから投げ込んであるくために必要な爆弾の数量や人手を考えてみたら、少なくも山の手の貧しい屋敷町の人々の軒並に破裂しでもするような過度の恐慌を惹き起さなくてもすむ事である。
 尤も、非常な天災などの場合にそんな気楽な胸算用などをやる余裕があるものではないといわれるかもしれない。それはそうかもしれない。そうだとすれば、それはその市民に、本当の意味での活きた科学的常識が欠乏しているという事を示すものではあるまいか。
 科学的常識というのは、何も、天王星の距離を暗記していたり、ヴィタミンの色々な種類を心得ていたりするだけではないだろうと思う。もう少し手近なところに活きて働くべき、判断の標準になるべきものでなければなるまいと思う。
 勿論、常識の判断はあてにはならない事が多い。科学的常識は猶更である。しかし適当な科学的常識は、事に臨んで吾々に「科学的な省察の機会と余裕」を与える。そういう省察の行われるところにはいわゆる流言蜚語のごときものは著しくその熱度と伝播能力を弱められなければならない。たとえ省察の結果が誤っていて、そのために流言が実現されるような事があっても、少なくも文化的市民としての甚だしい恥辱を曝さらす事なくて済みはしないかと思われるのである。

(大正十三年九月『東京日日新聞』)

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たのしい教育研究所の元気さの根本/たのしい教育メールマガジンから

 たのしい教育研究所は四年前の設立以来、着実に成長を続けています。その成長の根本にあるものについて、今週のメールマガジンに書いてみしまた。前書きの部分をお届けします。

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たのしい教育研究所のきょうこの頃から〈ひと粒〉

 

 おかげさまで、全国のいろいろなところで「たのしい教育研究所」に注目してくれる方達が出てきてくれました。そうやつて、応援団に入ってくれる方達が各地に広がっています。

 そうやって直接研究所を訪ねて来てくれる方達もいます。

 これまで「東京」から来てくれた方が研究所を訪ねた最北端記録でしたが、今週、東北 宮城県から来てくれた方がそれを更新してくれました。

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 おいしいお菓子も持って来てくれて、いろいろお話しをすることができました。

 わたし(喜友名)が50歳で早期退職してこの研究所を設立したことを聞いて「そうですか、今のわたしの年齢で退職したのですね…」と驚いていました。

 もう一人、沖縄の仮説実験授業の重要人物I先生も久しぶりに研究所を訪ねて来てくれました。I先生は沖縄県内の学校で管理職についています。。

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 これからのこともはじめとして、かなり深い話をすすめることができました。いつか「たのしい教育の歴史」を刻む意味でも、そのテーマで対談をしてみたいと思っています。

 

 四国に住んでいるMさんからは、実がぎっしり詰まった元気な「柿」が届きました。その数100個以上です。

 これはすでに半分以上、いろいろな方に分けた後の写真です。

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 二日後には研究所に来てくれたいろいろな方達にお分けして、残りは数個になりました。明日、訪ねてきてくれる方達に剥いて分けて食べようと思います。

 

 それから先日のハロウィンの日には、S先生がおいしいクッキーを届けてくれました。

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 先日は「活動の足しにしてください!」とまとまった額を寄付金として渡してくれた方もいました。

 

 他にも、たのしい教育研究所にはたくさんの方達が、たのしい教育を展開するための活動に力を注ぎに来てくれています。

 

 わずか一週間でも、たくさんの方達が研究所を元気にしにやってきてくれる、こういう日々が、たのしい教育研究所を成長させる大きな力、まさに元気の源です。

 

 今日も元気なたのしい教育研究所です。

 

 今週もたのしく綴りました。

 心を込めてお届けします。

                きゆな

 

 今週号のメルマガの内容は、このサイトでも少し紹介した「正義と民主主義としてのイジメ」全文と、新作の「シャトル・キャッチ」の作り方と楽しみ方を詳しく紹介した章、映画「SULLY ハドソン川の奇跡」の紹介など、いつものように読み応えたっぷりです。

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1号のみの購読も可能になりました。
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桃栗三年柿八年は本当のことか?/たのしい教育研究所の応援団から届いた美味しい柿を食べながら

 たのしい教育研究所を応援してくださっている方は沖縄だけでなく全国にいます。ちなみに今年はハワイからも応援団が加わりました、うれしい限りです。
 そんな中、応援団の四国在住の方から、元気そうな「柿」が段ボール箱いっぱい届きました。いろいろな方達に配ってもまだこんなに残っています。

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 この柿の実には、四国の地に降り注いだ〈太陽の光〉と四国の〈空気 CO2〉と四国の〈水H2O〉がたっぷり詰まっています。
 光合成というのはそういうことです。
 沖縄にいながらにして、四国の元気な太陽エネルギーと水と空気をたくさん吸収した感じがしました。

 研究所に来てくれる方達には4個ずつプレゼントさせていただきます。

 さて、柿を食べながら思い出したことがあります。
 わたしの愛読書の一冊に安野光雅の「異端審問」朝日新聞社 という本があります。
「棒高跳びの世界記録保持者は刑務所の塀を棒高跳びで飛び越えることができるか?」
など、安野光雅が興味深い問いを掲げて、それを森敬次郎さんが丁寧に調べてくれています。

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 その質問・問題の中の一つに「実がなるまでの長さを〈桃クリ三年柿八年〉というが、それは本当のことか?」という項目がありました。

 みなさんはどう思いますか?

 語呂が良すぎるので、誰かの作り話かもしれません。
 逆に、しっかりとした実験結果なのかもしれません。
 さてどうでしょう。

問題 実がなるまでの年月を〈桃クリ三年柿八年〉といいますが、それは本当のことでしょう?

 

予想
 ア.だいたい合致する
 イ.ぴったり合致する
 ウ.実際には数字はほとんど違っている
 エ.その他

 

どうしてそう予想しましたか?

 

 異端審問では「東京都農業試験場の川俣室長」に尋ねた結果を載せています。
それによると「桃栗三年柿八年という言い伝えは、タネから育てて実がなるまでの時期をそれぞれ正しく言い当てている」とのことです。

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 とすると、柿は桃や栗の2倍くらい実がつく時間がかかる、ということですね。
 甘さにすれば、桃がずっと甘いのですけど、柑橘系は概ね時間がかかることも書かれています。

 この柿のタネが発芽して八年後、たのしい教育がどこまで広まっているのか、たのしみです。

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たのしい図画工作-楽しい折り染め(折染め)の確かな成果としてのプリンタインク染め

 折り染めでプリンタインク(100均)がとても有効に活用できるという話は、たのしい教育研究所が公開する以前にも語ってきました。わたし(喜友名)が、随分以前に試したことがあったので、他の誰かも気づいているのだろうと思っていました。しかし、真剣に挑戦してみてはじめて、これだけの淡い色合いから、キリッとした色合いまでしっかりとしたバリエーションでたのしめることに、折染め好きのスタッフが何名も揃っている〈たのしい教育研究所〉のメンバー全員、驚いています。

%e6%a5%bd%e3%81%97%e3%81%84%e6%8a%98%e6%9f%93 折り染めはもちろん、専用の染料ではなくても、絵の具やマジックのインクなど、いろいろなものを利用することができます。しかしわたしが折染めを学んだ20年以上前、わたしにそれを教えてくれた方は「何しろ、服を染める染料が一番なのですよ」という話をしていました。それはきっと、折染め好きの方達に今も強く残っている可能性があります。

 折り染めのプリンタインク利用については「何かいろいろ使えるものの一つ」という意味ではなく、服を染める染料並みの発色、色の混合、おもしろみが期待できるということで発表させていただきました。
 たのしい教育は社会的な活動です。ですから、その教材なり、アイディアなりをいろいろな人たちが喜んで使える様にする活動こそが決定的に重要だと思っています。その意味で、このサイトでの紹介をはじめとして、たのしい教育Cafeやいろいろな講座で取り上げてきた「折り染め染料としてプリンタインクを利用する授業」はしっかりとした〈成果〉が上がって来ているようです。

 研究所にはたくさんのメールが届きますが、その中には折染めについて書かれたものもいろいろあります。

「プリンタインクであんなにキレイに染まることに、とても驚きました」

という感謝のメールの数々の中に、

「プリンタインクが利用できるのではないか、という話はどこかで耳にしたことがあった気がします。でもやはり専用の染料が一番だ、という様な話でした。それで、授業でそういうものを利用しようとは考えてもいませんでしたが、貴研究所のwebサイトを見て驚きました。さっそくやってみます」

というメールや

「折り染めにプリンタインクが利用できることを、たのしい教育研究所の公式サイトではじめて目にしました。〈具体的にどうやったらどう染まるのか〉ということが書かれていて、とても役立ちます。画期的な方法だと思います」

という様な感謝の言葉が数々届いています。

 また、いろいろなサイトなどでわたしたちの研究所の研究結果を利用してくれている様子を伝えてくれるメールも届いています。
 それらを見ても、やはり今回の研究は、画期的な研究だったと思っています。
 私が好きな授業に、「教材化発泡入浴剤」と「フィルムケース」で爆発やロケットの推進力をたのしく教える教材がありますが、その「フィルムケース」に当たるくらいの重要性があるのではないかと感じています。

 さて、そういう折り染めで楽しむ日々、来月の講座「図画・工作をもっとたのしく」に向けて、折り染めデザインの実験をスタッフと進めています。

 専用の折り染め(折染め)の染料は高いので、手近で手に入るもので数色の色セットを作り、提供しようと思っています。

 予備実験などをする第三研究所いっぱいに広げたインクや折り染め作品などがカラフルに部屋を飾っています。  %e3%81%9f%e3%81%ae%e3%81%97%e3%81%84%e5%b7%a5%e4%bd%9c%ef%bc%8d%e6%a5%bd%e3%81%97%e3%81%84%e6%8a%98%e6%9f%93%e3%82%8a%e6%9f%93%e3%82%81 
 折り方はいろいろあるのですけど「スルメ背骨折り」という方法をうまく伝えたいと工夫しています。東京に学びに行った時に「複雑折り」というネーミングで習ったのですけど、いかにも難しいというイメージが拭えません。子どもたちだけでなく、研究所にくるいろいろな人たちの中にも、名前だけで引いてしまう人たちが何名も出て来ます。「きゆな先生、もっと簡単な折り方を教えてください」という目で見つめてくる表情でもわかります。

 ここは、仮説実験授業と板倉聖宣から学んだ「子ども主体の教育に大胆に変革する」という発想に従って「スルメ背骨おり」としてみました。「名前はすごいけど、その名の通りに折っていって、染料に着けるときれいなデザインが出来上がります」ということでしばらく実験してみようと思います。
 たとえばこれが「スルメ背骨折り」で染めた作品です。

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 欲しいという方達が喜んで入手してくれるように、いろいろ試行錯誤中です。

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 講座「図画・工作をもっとたのしく」は今月後半 11月23日(水)勤労感謝の日です。

 他にもたのしい授業がいろいろ学べます。
興味のある方は早めにお申込みください。⇨こちら(クリック)

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