池の水を全部抜いて外来種を駆除するという活動があります。「外来種は全て悪」という考え方には怖さを感じるのは私だけでしょうか。そもそも私たち日本人はニホンザルやツキノワグマやニホンジカ、イヌワシ、桜、ミズナラが生息していた土地に、約3万年前に渡ってきた外来種です。
こういう池の水を抜いて外来種を駆逐するのはナチスドイツがやっていた方法だと聞いたことがあって、しっかり調べようと《検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?》を読んでみました。

目次
第1章 ナチズムとは?
第2章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?
第3章 ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?
第4章 経済回復はナチスのおかげ?
第5章 ナチスは労働者の味方だったのか?
第6章 手厚い家族支援?
第7章 先進的な環境保護政策?
第8章 健康帝国ナチス?
第7章の「先進的な環境保護政策?」を目当てにしたのだけど、結果的に、池の水を抜くという方法に言及されてなくて、その点では目的を達成できなかったのだけど、何しろおもしろい。著者の小野寺さんと田野さんのシャープな論旨に、納得することしかり。
「ナチスは良いこともした」と主張する人たちは少なくないようです。もしかして良いことをしたのなら、それを明らかにする必要があるでしょう。その時に、ある事実だを切り取って結論づけようとすることと、研究家のように、全体の脈絡から解釈していく方法があります。
たとえば「ナチスは女性に優しく、とてもよい家族政策を行なった子育て大国だった」という主張についてこう書いています。
(ナチス政権下では)将来の兵士や労働力を産み育てることが強く求められ、出産に対して様々な制度が存在した。
結婚に対しては、貸付金が与えられ、子供を1人産むごとに返済額が4分の1ずつ免除された。つまり4人産めば全額免除となった。全国母親奉仕団が母親学校を開催し、主婦。母親としての訓練を施した。全国25,000母親相談は母親への助言や情報に加え、乳児の下や子供用、ベッド食料品等の物支給も行われ、1000万以上の母親がそうした支援を受けた。
会社内には、幼稚園が設けられケースワーカーが生活問題全般の相談に乗った。親衛隊の生命の泉では、未婚の母への支援も行われただけ事実、やっぱりは良いことではないかと感じる人が多く出てきても不思議ではない。
これをみると「ナチスもなかなかいいことをしているではないか、と思えますね。
歴史研究が取り組んできたのは、こうした家族政策がどのような文脈でどんな政策とセットで行われたのかという問題だ。
家族政策に関して忘れてならないのは、こうした支援策の対象となったのが、ナチスにとって政治的に信用的に人種的に問題がなく、遺伝的に健康で、反社会的でもない人々だけだったという点である。
社会主義者や共産主義などの政治的的やユダヤ人障害者や反社会的とされた人々はそこから排除されていた。しかもナチ体制下では、地方保健機関の発行する婚姻健康証明書で健康が証明できなければ結婚できなかったし、子供を産まない者には罰金がされていた。
さらに障害者に対しては、まずは強制断種40万人、さらには安楽死30万人という名の殺害が行われた。
同性愛者も迫害を受け50,000人に有罪判決が下されている。そのうち強制収容所に送られたのが5,000~15,000人、死者は3000程度とされる。
ナチスの家族政策はこうした人種主義的な民族共同体を構築するための手段の1つだったのだ。
さらにいえば結婚資金貸付制度も当初は女性が仕事を辞めることを給付の前提としていた。ナチスは少なくとも政権初期段階では〈反女性解放〉を掲げる体制でもあった。
ある部分的な政策だけを切り取って「ほら、いいことをしている」と主張するのではなく、全体的なもののなかからそれを評価する必要があることがとてもよくわかる。
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