板倉聖宣(仮説実験授業研究会代表/日本科学史学会会長)がジャポニカ大百科に書き下ろした文章の抜粋版が、以前にも紹介した「仮説実験授業研究」という資料に掲載されています。1969年発行ですから、55年くらい前に編集発行されたものですけど、その元となる考え方と、授業の構造とがシャープに整理された内容です。
ところで、この〈たのしい教育研究所の公式サイト〉には《仮説実験授業》についての記事も掲載しています。それは〈たのしい教育〉をすすめるにあたって、ゆるぎないほど強力な教育方法と発想法を提示してくれているからです。気づいてみると、一般の先生たち、大学で学んでいる方たちをはじめ、教育関係者の皆さんからの問い合わせも多数届く様になりました。
その中で多いのが〈どういう授業を仮説実験授業というのか〉というテーマの質問です。
冒頭にある様に、仮説実験授業研究会の代表である板倉聖宣が、自ら生み出した仮説実験授業をどの様に記述しているか、ご覧下さい。
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仮説実験授業(かせつじっけんじゅぎょう)
科学上のもっとも基礎的一般的な概念・法則を教えて、科学とはどのようなものかということを体験させるととを目的とした授業理論。
この授業法の理論的基礎は主として次の二つの命題におかれている。
① 科学的認識は、対象に対して目的意識的に問いかける実践(実験)によってのみ成立し、未知の現象を正しく予言しうるような知識体系の増大確保を意図するものである② 科学とは、すべての人々カ納得せざるを得ないような知識体系の増大・確保をはかる一つの社会的機構であって、各人がいちいちその正しさを吟味することなしにでも安心して利用しうるような知識を提供するものである。
この第一の命題によって、実験の前には必ず生徒一人一人に予想・仮説をもたせなければならない、という主援が生れる。また、第一第二の命題から、討論の重要性が指摘される。他人のすぐれたアイデアを積極的にとり入れ、他人のまちがった考えを批判し、自分の考えが正しいと思ったら、みんなから瓜立しても自説を守り、他人を納得させるだけの論理と証拠・予言をそろえられるようにならなければならないというわけである。そこで、この授業埋論にもとずく授業では、問題・予想(仮説)・討論・実験 が授業の中心におかれることになる。
同じ概念・法則に関連する一連の問題をつぎつぎと与えて予想、をたてさせ、考え(仮説)をだしあわさせて討論させてから実験によってどの予想が正しかったかを知らせるうちに、目的とした概念・法則を確実に身につけさせようというのである。
このような授業で成果をあげるには、とくに適切な問題の作成配列が重要になるが、そのためには「授業書」という一種の教科書を準備し、教師と生徒に提供する方法がとられている。
この授業書には、問題のほかに科学者の研究成果も読物などの形で収録されている。上記の第二の命題によって、生徒たちに受け入れ能力さえできていれば、科学の知識は積極的に提供した方がよいというのである。
この授業理論は1 963 年(昭和38)に板倉聖宣らによって提唱されたもので、それ以来『ふりこと振動』『ばねと力』『ものとその重さ』『花と実』『電流と磁石』『溶解』『宇宙』などの授業書が作成され、全国各地の小中学校で多くの実験授業が行われている。そして、大部分のクラスでほとんど全員、「考えるのがたのしい」として理科の授業がすきになるなど多くの成果をあげたと報告されている。
また、一般の理科や社会科・算数の授業などにも予想をたてさせることが普及するなど多くの影響を与えている。(板倉聖宣)
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