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またぞろ〈右脳ブーム〉がやってきそう/たのしい教育メールマガジンより

 メルマガに利き腕と逆の手を動かすメリットについて書いた時、今から40年くらい前の「右脳ブーム」のことに触れました。同じように血液型生活分類、誕生日占い、速読(高速リーディング)、マイナスイオン、水は言葉がわかるといった、科学的に根拠のないものがブームになっては去っていきました。
 それに振り回された人たちが一線から去って、それをよく知らない人たちが社会に増えてきたころ、またそのブームが復活してきます。

 最近観た「チコちゃんに叱られる」で、右脳を鍛えることで天才になる、といった主張が紹介されていて、「あ~、右脳ブームが復活を見せてきたか」と心配になりました。

 1980年代に、人間に利き手があるように〈利き脳〉があって、右脳が利き脳の人はこれに優れ、左脳が利き脳の人は次の能力が優れているという話が流行しました。そういう流れがどんどん加速して「創造性を生むのは右脳だから、成功するためには右脳を鍛える必要がある」という理屈で脳トレをはじめとして爆発的なブームになりました。

曰く
●右脳
タイプの人が得意なもの
ひらめき

直感
創造性

芸術性

空間的
イメージ
記憶
全体を見る力

同時的情報処理

図形を読みとる

●左脳タイプの人が得意なもの

話す

書く

分析力

論理的・
科学的思考

推論

言語認識
数学理解力
計算

ブームの頃は《右脳派・左脳派診断》といった心理テストが溢れていて、いくつかの質問に答えると「あなたは左脳派で、金融マンや弁護士に向いています」とか「あなたは右脳派で、ミュージシャンやイラストレーターに向いています」といったキャリア教育的な診断も下されていました、今では笑い話に思えることでしょう。

 その後、右脳ブームはどうなっていったか?

 結局、右脳・左脳に基づく性格や能力の大きな違いを示す証拠は見つかっていません。「脳のどちらかが優位である」という考え方自体が現代の神経科学では否定されています。
 次に示すように、もともと右脳ブームを作った人は脳科学者ではなくエンジニアで、その後、脳の研究者たちによって「脳はそんな単純化して断定できるものではなく、利き腕のような意味での明確な〈利き脳〉があるとは考えられない。脳は左右が結びついて(協力して)機能している」という主張するようになって、ブームは去っていきました。

 日本で利き脳ブーム、右脳ブームが起こったのは、1981年に出版されたT.R.ブレークスリー著『右脳革命』であることがわかっています。
 その後日本人の著者による右脳革命の著書がどんどん出版されていきました。

 加速していったそのブームも今ではほとんど聞かなくなりました。

〈右脳・左脳タイプ分類はウソだった! 俗説が広まる55年の歴史https://re-sta.jp/article/6661/〉から校正・引用しましょう。

(『右脳革命』の)著者T.R.ブレークスリーは脳科学者ではなくデジタル電話や自動車誘導システムのエンジニアです。エンジニアが分離脳研究の一部を自分流に解釈して、右脳の優位性を説いたのがこの本です。
脳研究の専門家ではない分、わかりやすく書き著しているので一般の読者に受け入れられました。
 けれど、歯切れのよい表現を用いることが、科学者であったら決してしないような断定的な表現や、飛躍した誇張的な表現につながってしまいました。
「頭脳単一論は間違いである」「右脳には言葉で表現できない特有の思考形態がある」といった断定的な表現は、分離脳研究の科学情報を歪めてしまうものだったのです。

 これからやってくるだろう、「右脳タイプ・左脳タイプ分類」や「右脳を鍛えることですばらしい力が手に入る的な主張」に振り回されないくらい私たちの社会は成長してきたでしょうか、少し心配しています。

 チコちゃんの番組では、これから一ヶ月、右利きの芸人さんに〈左手生活をして右脳を鍛えてもらう〉ことで天才的な才能を手にいれるという実験をすると話していました。きっと一ヶ月後、その芸人さんは「あれができるようになった、これもできるようになった」と喜んで報告することでしょう。でもそのことと、左手生活をして右脳を鍛えると天才になる、ということとは別です。今まで使っていなかった部分に刺激を与えることは、脳全体のポテンシャルを高めるでしょう。そういうことが、ハッキリとらえられる人たちを増やしていきたいと思います。

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