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平和な社会をつくるために歴史をたどる/板倉聖宣『ヒトラーと民主主義』

 あと半月ほどで終戦記念日がやってきます。まちがいなくほぼ全員が平和が好きなのに、今でもいろいろなところで悲惨な戦闘が続いています。どうしてでしょう…
 今回は平和について考える内容を紹介します。

 板倉聖宣先生(仮説実験授業研究会初代代表/元文科省教育研究所室長/元日本科学学会会長/たのしい教育研究所 初期から支援者)が『ヒトラーと民主主義』というタイトルでまとめた冊子のはじめの部分を書き抜いてみます。その研究がはじまった時に板倉先生が研究会で紹介したものです。

板倉先生が沖縄に来てくれた時の一枚

はじめに

あなたは「ヒトラー」という人の名を聞いたことがありますか。
 その人は、どんなことをした人だか、知っていますか。

 多くのひとは「ヒトラーという人はとても悪い人だ」と、どこかで聞き知っていることでしょう。
 簡単にいうと、ヒトラーは「ドイツの独裁者になって、第二次世界大戦を始めた人」として知られています。
 だから〈とても恐ろしい人〉と言われているのです。
 それだけではありません。ヒトラーは「ユダヤ人を皆殺しにしようと計画して実行した人」として知られています。〈何も悪いことをしなくても、ユダヤ人だから〉という、それだの理由で虐殺したのです。
「ユダヤ人は劣等民族だから、生かしておいてはいけないから」というのです。
 たくさんの人を狭い部屋に閉じこめて、その中に毒ガスを入れて一時に大量に殺したというのです。
 ヒトラーは、どうしてそんなことができたのでしょうか。
 ひとりでは戦争など始めることはできません。いくら「あいつらは悪者だから戦争をしかけてドイツの領土にしてしまえ」と叫んだところで、みんなが賛成しなければ、戦争など起こせません。
 いくら「ユダヤ人は劣等民族だから絶滅してしまえ」とけしかけても、他の人びとが、それもたくさんの人びとが、それに賛成しなければ〈大量殺人〉などという恐ろしいことは実現で
きるはずがありません。
 それでは、ヒトラーはどのようにして、他の人びとをその気にさせることに成功したのでしょうか。
 自分の言うことをきく〈少数の狂気の集団〉に多数の人びとを脅迫させて、従わせることに成功したのでしょうか。
 現代の社会は、大なり小なり「民主主義的な社会」になっています。そう簡単に独裁者が現れて、たくさんの人びとを意のままに動かすことはできないようになっているはずです。
 それなのにヒトラーは1933年にドイツの独裁者になることに成功しました。
 そして1939年には、ほとんど全世界を相手にして戦争を始めたのです。日本もそのドイツと手を結んで、第二次世界大戦に参加してしまいました。そして「特定の民族を皆殺しにしよう」などという恐ろしい事業に協力してしまったのです。
「どうして、たくさんの人びとがそんなことに協力してしまったのか」そのナゾを明らかにしておかないと、私たちもそんな愚かなことをしてしまうようになるかも知れません。

 そんなことが心配になって、この冊子にまとめることにしました。

 戦争などは、狂気の人間がはじめるものだと考える人がいます。
 けれどそれは違います。「ひとりでは戦争など始めることはできません。いくら〈あいつらは悪者だから戦争をしかけてドイツの領土にしてしまえ〉と叫んだところで、みんなが賛成しなければ、戦争など起こせません」という言葉は、私たちが強く意識しておかなくてはいけないものでしょう。

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