悲しい出来事に負けないで/最新〈たのしい教育メールマガジン〉の反響から

 最新号の〈たのしい教育メールマガジン〉で最も反響が大きかったのは「映画の章」の中で少し書いた《悲しい出来事に負けないで!》という稿でした。

悲しい出来事に負けないで!
 韓国には名優がたくさんいると書いたのですけど、その先頭集団を走っていたイ・ソンギュさん(アカデミー賞『パラサイト 半地下の家族』の主要キャスト)が昨年末、自死するという辛いできごとがありました。
 本人は薬物使用を否定し続けているなか、警察での取り調べの内容が次々マスコミに流れ、その後3回目の取り調べが何と〈19時間〉にも及び、朝方返されたイ・ソンギュさんは、その後、自ら命を絶ったといわれています。

 韓国映画界の団体はポン・ジュノ監督を筆頭に「警察の情報管理にわずかの問題もなかったのか、徹底した真相究明を求める」と表明しています。
 日本でも『セクシー田中さん』の原作者芦原妃名子さんの〈無念の自死〉といわれているできごとと重なり苦しくなります。
 以前の映画の章で紹介したナワリヌイさんも先日ロシアの獄中で突然死したと伝えられました。私はそのニュースを聴いてとても悲しい日々を過ごしました。
 財務省近畿財務局職員〈赤木さん〉が首相の不正に繋がる可能性を摘むために上司から公文書改ざんを強いられ自死した事件もありました。
 それらに被さるように、私たちの税金を勝手に利用する政治家達の暴挙などが明らかになってきています。一人ひとりの無力感に脱力してしまう人たちも多いと思います。

 私が注目していた映画プロデューサーに〈叶井俊太郎さん〉がいます、去年から何度もこの章で書こうと思っていたとても面白い人物です。
 いろいろ否定的な評判もあり、作った会社が倒産するなどの問題も起こっていたのですけど、数年前、漫画家の倉田真由美さんと結婚したことで、世間の噂ほどへんな人ではないのだろうと思っていました。

 倉田さんの顔や発言をみると〈いい人だ、真当な人だ〉と思えます。「いい人が心を許す人はいい人だ」という私の人間観からすると叶井さんは世間がいうほど悪い人ではない…
 叶井さんは2年前、末期の膵臓ガンだと診断され、「髪の毛が抜けるくらいなら抗癌剤治療はやらない」と宣言し、癌治療を拒否して普通に仕事を続けてきました。
 昨年末『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論 単行本』という本を出しました。末期の癌患者の執筆だというのに、笑える名著です。※〈たの研蔵書〉なので読みたい方は一週間レンタル可能です
 この人はまだ数年は生きるんじゃないだろうかと考えていたのですけど、叶井さんは先週他界しました。とても悲しいニュースでした。
 まだまだ悲しいできごとはたくさんあります。
 そうやってみていると、私たちの周りには悲しいことがたくさんありますね。それに注目していると世の中は悲しい出来事に満ち溢れているかのようです。
 けれどそれらを前にして私たち自身が力をなくしてはいけません、それは想い半ばだった大切な人たちのその想いを消し去ることにもつながります。
 時間はかかるだろうけれど、大切な人たちの想い、やりたかったことを無にしない意味でも私たちがまず元気に生きる、『闇が深ければ深いほど、光もまた強く輝く』でいきましょう!

 ソンギュさんのことを書いたら話がどんどんすすんでしまいました、最近は〈大切な対象を亡くした方〉たちのカウンセリングも複数引き受けたので、そのこともあったのでしょう、そのまま筆が流れていきました。
 そろそろ映画『暴力都市3』の話に戻しましょう。

 世の中には、これでもか、と思えるくらい悲しい出来事があります。それらを前にすると、本当に私たちには力がないのだなと思えるくらいです。それでも力を止めてはいけません。
 変わらないように見えても必ず世の中は変わります。
 それは歴史が証明してくれています。

 読者の皆さんと一緒に前に進んでいくこることを噛みしめながら、毎日このサイトを綴っています。可能な方はぜひ周りの人たちに「このサイトいいよ」と伝えてリンクを送ってください。地道な取り組みが世の中の変化を必ず後押ししてくれるでしょう。よろしくおねがいいたします。

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「楽しさだけを強調してはいけない」という意見にどう答えますか?/メルマガで反響の大きかった記事から

みなさんはこの疑問に何と答えるでしょう?
「〈たのしい、たのしい〉というけれど、エジソンだって1%の霊感と99%の汗を流して研究したといいます。いろいろ話を聞くと〈創造性〉というものがあった人でも非常に汗をかき苦しんでいるのですから〈たのしさだけ〉を主張してはいけないのではないか」
 たのしさだけでなく、耐え忍んで、がんばって勉強することも大切である、というわけです。

 「楽しさだけを強調してはいけない」という意見にどう答えますか?

 このことを正面から否定できる人はほとんどいない気がいます。
 どうでしょう、みなさんならどう答えるでしょう、少し考えてみませんか。

あなたの考え⬇︎

 板倉聖宣(仮説実験授業研究会初代代表・日本科学史学会 元会長)が「板倉式発想法講座1994.05.06」でこういう話をしてくれています。
 要旨の部分を書き抜きましょう。

板倉

 4月22日(1994)に国立教育研究所で「授業はたのしいだけでいいか」というテーマで所内講演会がありました。

 私が想像した以上に、たのしい授業に対する批判は出ませんでしたが、普通ではあまり聞かない質問や意見が2~3ありました。
 その一つが「〈たのしい、たのしい〉というけれど、エジソンだって1%の霊感と99%の汗を流して研究したではないか。いろいろ話を聞くと〈創造牲〉というものがあった人でも非常に汗をかき苦しんでいるのだから、たのしさだけを主張してはいけないのではないか」という意見でした。
 これまで学校の先生に「たのしい授業」の話をすると、不思議なことにこういった議論は全然出なかったんですね。
 こういった意見は「やっぱり耐え忍ぶ能力が必要なんだ」ということなんでしょう。

 でもこの意見には簡単に答えられるんです。
 エジソンは〈楽しいから汗をかいた〉んです。
 イヤだからやったんじゃないです、自分の霊感が閃いて成功するに決まってると思ったから汗をかいたんです。
 成功しないだろうと思いながら耐え忍んでがんばったんじゃないんです。

 私が仮説実験授業を始めるときに掲げた大きなスローガンは〈先生方ををできるだけ楽にさせて成果をあげる〉ということでした。
〈先生方の労働時間を滅らして、できるだ楽に授業ができるようにしてあげよう〉と考えたのです。

 ところが仮説実験授業を始めたとたんに勤勉になってしまいました。
 それでわたしは「勤勉になったら勤勉であってもいいんですよ。何も勤勉にならないのが大事なのではなく、勤勉になりたくなってしまったら勤勉になればいいんです。勤勉さを恥じらう必要はありません」という文章を書いたことがありました。

 普通は勤勉にやったって成果があがらないということがわかってるから、いや成果があがったという感じがしないからやらないんです。
 ところが勤勉な人はみんな成果が見えてしまう、成果が見えちゃうと勤勉にならざるを得ない。

 勤勉になるためには〈たのしさ〉がなかったらむりなんです。
 たのしくなって勤勉になる、そして成果が見える。
 イヤな気持ちでがんばったってできません。
 いや、そもそもがんばれないんです。
 勤勉というものは努力するものではなくて、結果が見えるから努力をしたくなってしまうものなのです。

 その点、日本の教育は明治以来ずっとまちがっていました。

「たのしいからやるのだ。結果が見えるからするのだ」ということがわからないで「努力しなさい、努力することが最も大切なんだ」と言い続けてきたんです。

今日の記事はどうだったでしょう、ご意見ご感想をお待ちしています。

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授業の腕を高めるには=評価感想は授業の実験結果-楽しい評価論②/上達論

 さてここから教育をめぐる動きから、個人としての上達論の話に移ります、前項未読の方は一つもどってお読みください。

「授業をうけるのが当たり前だ」という発想は「このパンは買うのがあたりまえ」で「このコーヒーも注文するのが当たり前」だというものに近いものがあります。パンは買わなくても他に食べるものがあります、コーヒーは飲まなくても他に飲むものがあります。

 そういうことを考えているパン屋さんは潰れ、珈琲屋さんも廃業の憂き目にあうでしょう。

 けれどそういうように考えている教師から子どもたちや保護者が離れていっても、国という体制に守られ、その教師は職を失うことはありません。

 わたしは武道家だったこともあったからでしょう、守るもののない中で自分の腕を試したくて、教師満期の10年以上を残して早期退職し、授業の腕で生きてきました。絵に描いたように、たくさんの処から声がかかり、教師をしていたとしたら出会えないくらいの数の人たちに授業をすることができました。このサイトの人気度もその証の一つと言えます。

 とはいってもわたしの様に生きていくのは難しいでしょう、それでも腕を高めていくことはできます。

 大切なことは、権威的なものに寄りかからないことです。「どこどこ大学の有名ななになに先生がこういっている」「今後の教育はこれこれがリードする」そういうもので自分の方向を決めない。そういうものは長くても何年かするうちに過去のものになっていきます。10年ほど前、わたしがまだ教師をしていた頃、◯◯市が全力をあげていた教育がいろいろ変わっていきました。初めて転勤してきた時には「本市は〈ほめて育てる教育〉に全力をあげています」、それから三、四年するうちに「◯◯大学の◯◯先生の指導のもと◯◯という教育に全力をあげて取り組んでいます」、お金もたくさんかけたようですけど出ていく時にはもうそれも言われなくなりました。

 では何に寄りかかるのか?

 子どもたちの〈笑顔とやる気〉の方向です。

 子どもたちが学ぶことで自分の可能性を生き生きと伸ばしていく、その過程で「よくわからなくても我慢して続ければそのうちに花開くことがあるんだ」という様なことを中心にせず、学ぶ課程でたのしさを重視していくことで、笑顔とやる気が高まってきます。

 なんでもいいわけではありません、もちろん教育課程を無視するのではなく、それに基づいてたのしく授業することは可能です。

 教師が「これは子どもたちが笑顔で生き生きと可能性を伸ばしていく」と考えて、たとえば国語の詩の授業をすすめる、それでいいわけではありません。

 子どもたちにその授業を評価してもらってください。

〈たのしさ度〉と〈わかった度〉、どちらもとても大切です。それに自由感想を加えてもらってください。

 子どもたちの〈笑顔とやる気〉の高まりに目標を定めて、評価感想をとる、それを続けていけば、よほどのことがないかぎり授業の腕は高まるでしょう。

 具体的な授業の方法を知りたい方は、スーパーバイズもあるのですけど、まず〈たのしい教育メールマガジン〉を購読することです。週に一つ、たのしい教育をする、子どもたちと仲良くたのしく関わっていく発想法を学ぶ、そうやってたのしく教師をしている先生たちがたくさんいます。

 教師が授業力を高めていくことで、その人の周りの子どもたち、保護者の方たちの笑顔とやる気が高まっていきます。そのうち社会が変革していった時、その先生たちが教育界をリードするようになっていることでしょう。

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一番桜とたのしい教育-生物の多様性は個性としても現れる

 東京で4月に開花する桜ですけど、沖縄では2月に入るか入らないあたりに花開きます。数日まえ、気に入りの〈桜の小道〉を歩きました。
 12月初旬の頃ですから、まだ花は開いていませんね。

 と思うかもしれませんけど、よ~く見てください。

 咲いているんですよ、中央やや左、山並と重なるあたりをアップするとわかると思います。
 ほとんどの人たちは、こういう桜の姿をみて、〈こんな早い時期に桜が咲くことはない。そういうこともあるかもしれないけど、自分がそれに出会えることはめったにない〉と考えているから見えない

のです。

 ズームレンズで撮ったのがこの写真です。

 目が慣れてくると、いろいろな木に花を見つけることができます。

 こんなに早く咲くなんてすごい、と思うかもしれません。

 ところが桜の木々がたくさんある場所でさがせば、そう難しいことではないんですよ。

 生物の多様性は、いろいろな種の違いとしてあらわれるだけではありません、ミミズならミミズという一種類の中でも個体間でいろいろな個性の違いがあります。体格的なものだけでなく、光や振動に対する感度、反応スピードの違い、食べ物を探す時のチャレンジングな行動、慎重な行動なども違うでしょう。

 桜にも個体差があります。

 早く開花する桜、ちょうど周りの桜が開花する時期に開花する桜、まわりよりずっと遅れて開花する桜etc.
  当然、人間にも多様な個性が存在します。

 目が良いとか身長が高いというような生物的個性だけでなく、社会的な差異はますます大きく表れます。

 何でも早いことがよいわけではなく、ゆっくり慎重にすすんでいく個性も大切です。
 いろいろな個性が全体として人間社会をすすめるのであって、単一価値の個性が何かを突破し続けるわけではないのです。

 エイズにかからない人たちがいるくらいですから、いろいろな病原体に強いタイプの人たちもいるでしょう。
 計算能力が高いことはすばらしいことですけど、それと比較してコロナに強い人たちのすばらしさもひけをとりません。

 学校では知識の量、理解力、計算処理、体力などで価値づけることが多いのでけど、もっと多様な能力でこどもたちをみてあげてほしいと思います。
〈足の速さ遅さ〉と〈やさしさ〉はどっちが重要か。
〈漢字力〉と〈相手の心を理解する力〉はどっちが重要か。

 そういう視点でみていくと、いろいろな子どもたちの素晴らしさが見えてくると思います。

 毎年こうやって一番桜をみつけると、子どもたちのことを考えてしまいます。

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