ラプラスについては〈熱い冷たいって何?〉の項に少し触れたのですけど、その時書きたかったのは実は今回の内容です。
まずラプラスさんについて紹介しましょう。
ピエール=シモン・ラプラス(Pierre-Simon Laplace, 1749年3月23日 – 1827年3月5日)は、フランスの数学者・物理学者・天文学者。「天体力学概論」(traité intitulé Mécanique Céleste)と「確率論の解析理論」という名著を残した。 1789年にロンドン王立協会フェローに選出された。wikipediaより
ラプラスは18~19世紀に活躍したフランスの科学者・数学者で、彼の卓越した才能は〈ニュートンの運動法則を完成に導いた〉と説明されることもあります。ニュートン力学に基づいて天体の運動を計算するための数学的手法を確立したからです。実際に彼は土星の軌道の計算に成功し、その他にもニュートン力学を応用して流体力学や弾性体力学などの分野においても重要な業績を残しました。
けれどそれよりも私は次のラプラスのエピソードが大好きです。
ラプラスの著書『天体力学概論』が評判になった時のこと、フランスの皇帝ナポレオンがラプラスに「お前の書いた本は不朽の大著作だと評判が高いが、神のことがどこにも出てないじゃないか」と語ると、ラプラスは眉根ひとつ動かさず「陛下、私には神という仮説は無用なのです」と語ったという話。
ラプラスも原子論者つまり本物の科学者なのです。
ところで、その無神論者のラプラスなのに「ラプラスの悪魔」という言葉が広まっています。
ラプラスは、これから起きるすべての現象はこれまでに起きたことに原因があって、ある特定の時間の宇宙のすべての粒子(原子)の運動状態が分かれば、これから起きるすべての現象はあらかじめ計算できる。つまり人々の行動はすでに決まっているという決定論的な考え方です。
殺人犯はそれまでの流れで殺人を犯す必然があったということです。
この〈すべての原子の動きを計算できる存在〉が「ラプラスの悪魔」といわれています、この悪魔はすべての未来とすべての過去を知ることができる。
その科学論の真偽はいずれ触れるとして、とても気になるのは「私には神という仮説は必要ない」と語ったラプラスが〈悪魔〉と仮定を使っていることはおかしいのではないか、ということです。
神も必要ないないら悪魔という仮定も必要ないのにね。
とずっと気になっていたら、ある時その謎が解けました。
ラプラス自身は著書の中でこう書いていたのです。
もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力がある〈知性〉が存在するとすれば、この知性にとって不確実なことは何もなくなり、その目には未来も、過去同様に全て見えているであろう。
— 『確率の解析的理論』1812年
ラプラスは「それらのデータを解析できる〈知性〉が存在するなら」と語っているのであって〈悪魔〉という表現は書いていません。
明らかにその後の人たちの誇張、間違い、あるいはラプラスを神や悪魔に近づけようという宗教的な意図が含まれた表現だったのでしょう。
卓越した科学者ラプラスには〈神〉という仮定・仮説も〈悪魔〉という仮定・仮説も必要なかったのです。
安心しました。
ラプラスの凄さは、ニュートンが「惑星同士が衝突しないように神様が微調整してくれている」と語ったことすら「そういう調整は必要ない」と証明してしまったことです。それについては項を改めて書きましょう。
またラプラスのいう、すべてを見通せる〈知性〉は存在するのか、いずれこのサイトでいつか書きたいと思います、おたのしみに。
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