楽しいブックレビュー 米原万里『打ちのめされるようなすごい本』文春文庫-日本の教科書の無味乾燥さ

 大好きな作家に米原万里さんがいます、残念なことに56歳という若さで他界してしまいました。切れ味鋭い文章を綴る達人でした、100歳以上まで生きて、もっともっといろいろな本を残して欲しかったと残念でなりません。

 米原さんのおすすめの本はたくさんあって、去年メルマガで『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』を紹介したところ、さっそく購入しましたという声がいくつも届きました。
 多読の米原さんの書評を集めた如唯一の本『打ちのめされるようなすごい本/文春文庫』も多くの方におすすめです、実に面白い。

 その本の表紙裏の著者紹介がよくまとまっているので文芸春秋社に感謝して引用させていただきます。

著者紹介
米原万里 (よねはら・まり)
1950年生まれ。 元ロシア語会議通訳、 作家。
59~64年、 在プラハ・ソビエト学校に学ぶ。
東京外国語大学ロシア語科卒業、東京大学大学院露語露文学修士課程修了。
80年設立のロシア語通訳協会の初代事務局長を務め、95~97年、03~06年会長。
92年、 報道の速報性に貢献したとして、日本女性放送者懇談会賞を受賞した。
著書 『不実な美女か貞淑な醜女か』(徳間書店、新潮文庫)で読売文学賞、『魔女の1ダース』 (読売新聞社、 新潮文庫)で講談社エッセイ賞、『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 (角川書店、角川文庫) 大宅壮一ノンフィクション賞、『オリガ・モリソヴナの反語法』(集英社、集英社文庫)Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
他に『ロシアは今日も荒れ模様』(日本経済新聞社、講談社文庫)『真夜中の太陽』 『真昼の星空」(中央公論新社、 中公文庫) などがある。
2006年5月、 逝去。

 米原さんは多読家で、多岐にわたる興味関心にまかせてたくさんの本を手にし、〈歯に衣着せぬ〉言葉で、いいのはいい、おかしいのはおかしい、と腑に落ちるように語ってくれています。また教育や政治、〈ものの見方・考え方〉についても折に触れて伝えてくれます。

 今回はその中の一つを紹介しましょう。
 54ページ《退屈な教科書と大江づく日々》の項に「期待はずれだった」という本(あえてタイトルは伏せましょう)に触れて、こう綴っています。

 中学2年の時に帰国し近くの公立中学校に編入した私は、歴史のみならず、あらゆる教科書の絶望的たいくつさ加減にショックを受けた経験がある。
 義務教育であるとかテストがあるとかの強制力がないかぎり、一行とて読み進める気が起こらない羅列(られつ)的記述。

 そこには〈ものを知る〉=〈知らせる〉喜びも、ものごとの本質を極めていく時のあの胸のたかなりも影を潜めているのだった。

 それまで小学校の3年から5年間滞在したプラハで通ったソビエト学校の教科書は、どれも読み出したら最後、止まらなくなるおもしろさだった。これは嘘でも誇張でもない。新学期が始まってひと月もすると、大方の生徒が全ての教科書を読破し終えていた。

 この「面白くなくては」つまり「子どもが読んでくれなくては教科書ではない」という常識が日本では逆転していて、教科書はたいくつの代名詞となっていた。

 客観的記述=羅列という思い込みが日本の教科書を支配していると思った。

 日本の教科書の無味乾燥さは、たくさんの人たちが指摘するところで、特に驚かないのですけど「嘘でも誇張でもなく〈ソビエト学校の教科書は、どれも読み出したら最後、止まらなくなるおもしろさだった〉。新学期が始まってひと月もすると、おおかたの生徒が全ての教科書を読破し終えていた」という話には驚いた。

 そうか、ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフ、プーシキンとかいう世界に名だたる大作家たちを生んだソビエト・ロシアは教科書も読み応えあるものなのだな、とてもうらやましい。

 ただ、あえて米原さんに伝えたい。

「国語の教科書の文学作品はいいと思うよ」

 ちなみにこのサイトでも以前かいたかもしれません、私が無人島に本を一冊持っていくとしたら、国語の教科書(高校)を手にすると思います。

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楽しい読み語り「アルフィーのいえで」お勧めブックレビュー

 2ヶ月前の秋の講座(2023年)でさくら先生がとりあげた『アルフィーのいえで』は読み語りにおすすめの一冊です。

 気に入りの赤い靴をお母さんが「処分しましょう」というので、反抗したアルフィーが「それならボク家出する」といい出すところから始まる絵本です。
 これはアルフィーがカバンに家出用の荷物を詰めているところ。

 当然のごとく
「アルフィーのお母さんはとても困ってしまいました」
 と話が進むと思ったら…

 このお母さん、なかなかの人物です。

 ぜひ展開のおもしろさに触れてみてください。

 子どもたちもきっとハラハラしながらのめり込んでくると思います。

 私はさくら先生の読み語りで4~5回味わったのですけど、何度聴いてもいい気持ちになる作品でした。

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行くなという処には行かない、行きなさいという処には行く、そういう子ども達を育てるのが教育の目標か?

「行っては行けないと言われたら行かない子を育てるのが教育か?」という言葉は最新メルマガの発想法の章の中の言葉です、さっそく反響がいろいろ届いています。

 発想法の一部を加筆して紹介しましょう、章のやや後半の部分です。

 今回の石川県の災害ボランティアのことでも強く考えることがあります。
 SNSなどで流布されている「石川県側がボランティアは迷惑だと言っている」という情報の真偽はすでに書いたのですけど、それとは別に「行くなと言われているところには行かない子を育てるのが教育の目的」なのか考えてみましょう。
 みなさんはどう思いますか?

 小学校で「川や池に近寄らないようにしましょう」という安全指導があって、それを守らないとキケンです。

 けれど中学、高校と進むうちに川へ行き魚釣りしたり、池でザリガニ獲りするようになる人もいます。大人になったら自分の子どもを連れて川や池に行くこともあるでしょう。
 いつまでも小学校の安全指導を守っているという人はほとんどいないでしょう、たぶん。

 成長段階でも違うとはいえ、そもそも「言われたことを守る子どもを育てる」という目標はどれだけ重要なのか考えてみてください。
「行くな」ではなく「行きなさい」はどうでしょう?
「行きなさい」と言われたら行く子を育てるのが教育の目標でしょうか?
 上からあるいは周りから言われたことに従うことが教育の目標だとしたら怖いことです。
 今から数十年前の日本では「戦争に行きなさい」と言われたら従う子ども達を育てることが当たり前のことでした。
 その結果「飛行機で敵軍の戦艦に突っ込みなさい」といわれたら行く人たちがたくさん育ちました。
 私たちはそういう悲惨な社会実験から学ばなくてはいけません。

 上から言われたこと周りから言われることには基本的に反対するということもおかしいのですけど、言われたことに従うということも恐ろしい・・・

 今はボランティアに行ってはいけない、現地に入ってはいけないと言われたら行かない。
 みんなでボランティアに行ってください、と言われたら行く、そういう人間を育てるのが教育だとは思えないのですけど、みなさんはどう考えるでしょうか。

 教育の目標は、誰かの声に従って行動を決める人間を育てることではなく、自分の頭で考えて(予想して)判断する人間を育てることだと、私は考えています。

 今回の石川県の災害ボランティアを起点に考えてきたのですけど、そろそろまとめましょう。

 偽情報に騙されない、見切ることが大切だということと同時に、誰かから言われたことで自分の行動を決めるのではなく、それを〈選択肢〉の一つとして、自分の頭で考え予想を立てて行動していける子ども達を育てることが大切なのだと私は考えています。
 そういう子ども達を育てるためにも、私たち自身がそうあることが大切でしょう。
 とはいってもなかなか難しいかもしれません、特に優等生で育ってきた人たちはそうでしょう。
 そういう中でまず一つ、たとえば〈クラスの平均点を上げること〉が重要なのか〈点数の前に子どもたちの知的好奇心を高めること〉が重要なのか、自分の頭で考えて「こうではないか」と予想を立てる、そして実践(実験)していくことが大切になってくるでしょう。

ここまで

 たのしい教育は〈おもしろおかしい見せ物〉ではありません、子ども達の笑顔と賢さを広げる本格的な教育です、一緒に力を合わせていただけると幸いです。

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ミヒャエル・エンデ『モモ』に還って『モモ』を超える/Delightfulな世界-たのしい教育の発想法/今年もお世話になりました

 エンデさんの『モモ』を読んだことがあるでしょうか、サスペンス系のメルヘンで、おすすめです。以前いくつか『モモ』について書いた記憶があります。※このサイトの検索窓(パソコン仕様なら左、スマホ仕様なら最下部の〈サブコンテンツ〉から)に『エンデ』と打つと出てくると思います

『モモ』は時間泥棒たちから、本来の人間らしい時間を取り戻す物語です、はらはらドキドキしながら読み進めるうちに、自分の人生を想う人たちもたくさんいるでしょう。

 仕事仕事で明け暮れる日々、休みの日でさえ〈次の仕事〉のための元気をとりもどすために使う、そういう人たちは多いのではないでしょうか?

『モモ』に出てくる〈灰色の男たち〉は「働け働け、働くほど未来が豊かになるぞ、今は苦しくても働けば楽な日々がやってくるぞ」と語りかけ、人々からゆとりの時間をどんどんうばっていきます。
 灰色の男たちと契約した人々は、友人たちとゆっくりおしゃべりする時間さえ惜しんで仕事に没頭していきます・・・

 今の社会はそうなっていないでしょうか?

 エンデが描いた〈灰色の男たち〉は、現実にこの世界のどこかに住んでいて、人々を仕事漬けにして、それによって自分たちは働かず大きな利益を手にしている誰かたちではないでしょうか。

 エンデは実際、それを意図してこの小説を書いたに違いないでしょう。

岩波書店に感謝して参照

 残念ながら仕事に明け暮れなければ食べていけない、子どもを学校に通わせることができない人たちもいます。
 人間は基本的に〈健康で文化的な生活〉をする権利があります、社会的なシステムとしての支援が必要です。
〈たの研/たのしい教育研究所〉もひとり親世帯など、子どもの教育に力を注ぐゆとりが少ない方たちへ〈楽しさと賢こさで未来を拓く〉という支援をしています、関心のある方はお問い合わせください。

 自分の生活時間の多くを使って働かざるを得ないのではなく、大人たちは子どもたちと語るゆとりや遊びにいく時間をみつけられることが本来の暮らしです。
 そうやって健康的に文化的に生きていくことを奪っているのも、人々に利益を還元しないで私腹を肥やす〈灰色の男たち〉がいるとみることもできるでしょう。

 さてそうやって、まず人々にゆとりが戻ってくればうまくいくか?

 それは一つの過程だというのが、私いっきゅうの考えです、人間はやはり〈やりがい〉のあることをして生きていきたいものです。

 人々がイメージする、いわゆる天国の様な世界、静かで特に何も起こらない、優しい風が吹いて、飢えることもなく、仕事にいくこともない・・・
 そういう世界が続いたらきっと「自分はもっとワクワクハラハラドキドキすることをしたい」とか「この静かな天国をもっとたのしいところにしたい」と考える人たちがでることでしょう。

 健康で文化的な生活が来たら、たのしくワクワクする様な生活をしたい、それが人間だろうと考えています。

 エンデが『モモ』で描いた世界、その次の世界が〈たのしさの世界〉です。

 〈たの研/たのしい教育研究所〉の英語表記は

Research Institute of Delightful Education

です。

Research Institute は研究所を表す言葉で、Educationは 教育 です。

たのしい教育の〈たのしい〉は fun とか enjoyable ではなく Delightful です。
light(ライト)という言葉が入っていますね、〈周りを明るく照らす、新しい世界を開かせるたのしさ〉というイメージの言葉です、語尾の ful(フル)は「~に満ちた」という意味です。
 つまり〈楽しさに満ちた・明るさに満ちた〉世界を切り開く教育をすすめているのが〈たのしい教育研究所〉です。その教育そのものが楽しさと明るさに満ちています。

 『モモ』が灰色の男たちから取り戻そうとした世界のその次は、Delightful な世界でしょう。
 そういう世界がくるためにも教育は必要不可欠なものです。

 2023年も終わりが近づきました。

 今年も本当にお世話になりました。
 来年も日々の〈購読応援〉よろしくお願いいたします。みなさんのおかげで何年来もの夢〈アクセス数1000件突破〉を達成できたのがこの年です、心から感謝しています。

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