読書のすすめ/安野光雅著「絵のある自伝」を手にして考えたこと

 所用で東京のあちこちを飛び回っています、雪が降るかもという予報が外れて残念。阿佐ヶ谷の街を歩いているとき古本屋さんをみつけました。

「そういえば本屋さんに通りかかったら必ずというほど入っていたなぁ」と思い、用も済んだ後だったので、ずいぶん久しぶりに入ってみました。

 いかにも古書店の店主という様な白髪の店主が奥に座っていて、客は私の前にも誰もあません。

「みせてくださいね」という私に

「どうぞ」と返し、ヒーターを強くしてくれました、優しい人です。

「最近、こういう古本屋さん、少なくなりましたよねぇ」と話すと

「いえ、中央線のあたりはそうでもありませんよ」という返事、嬉しいことです。

 店にどういう本があるか質問などして、しばらくやりとりしたあと、落ち着いて中をみてまわりました。

 ちょうど堀田善衛さんの本があったので〈方丈記私記〉を探してみたのだけど見つからず、近くにあった安野光雅の〈絵のある自伝〉を買いました。これも単行本を誰かに貸したままになっているので、ちょうどよし。

 人間が親しんできたもので役立たないものは基本的にないと思います。
 私が子どもの頃から親しんできて、とてもたくさんの楽しみを与えてくれて、いろいろな状況を突破する中で強く助けてくれたものがあります。 

 それが〈本〉なのは間違いありません。

 一人の人生では決して味わえないくらいたくさんの感覚や感情、ものの見方考え方、行動やそれに伴う楽しさ、厳しさ、強烈な人物やごく普通の人たちの個性や行動、おそらく行けないだろういろいろな場所、食べたことのない料理etc.

 そういうものを味わわせてくれた最大の媒体は〈本〉でした。

 こども達の周りに本があふれてほしい、そして本を読むことを強制したり、これがいいあれはダメとコントロールする人ではなく、本の楽しさを伝えてくれる人が増えてほしい。
 そうすると、たとえ今、本を手にしなくても、その魅力はきっと子ども達に伝わって、いつか自然に手にする様になるだろうから。

 そんなことを考えながら、数年ぶりの古本屋さんらしい古本屋さんを後にしました、新年の大切な出来事の一つです。

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楽しく島言葉〈今日明きてぃ、明日に学ばていすりば、明日からぬ明日や明後日なゆさ〉、今をたのしみましょう!

 読者の方から届いたたよりをきっかけに書かせていただきます。

 沖縄タイムス誌面にこういう島言葉〈黄金言葉〉があったそうです。

今日明きてぃ 明日に学ばていすりば

   明日からぬ明日や 明後日なゆさ

 ちなみに、私にはこの意味を理解する方言力はありません。
 その方もよくわからなかったそうで、解説を読んだそうです。

今日が明けてから明日学ぼうとすれば、

明日もまた明日になって、明後日になってしまいます。

物事は明日があると思って先延ばしにしてはいけません

 なるほどね。

「そうはいっても一気に全部を今日やるわけにはいかないよね」と思ってしまうのは私だけでしょうか?

 たのしい教育研究所は「明日でもいいんじゃない」と言われても待てないほど学びたくなる教材を提供する組織です。

明日学ぼうといわれても

どうしても今日学びたくなる

そんな勉強が一番いい!

 という島言葉を、どなたか作ってくれたらうれしいです。

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長く続くことはよいこととは限らない- 板倉聖宣1994年 月刊たのしい授業〈続刊のことば〉から

 応援してくださる皆さんのおかげで、たのしい教育研究所(RIDE)は10年目を迎えています。〈たの研〉を強く応援して下さった板倉聖宣先生が創刊した『月刊たのしい授業』が11年目を迎えた時「長くなるとマンネリになり、創造性が失われるおそれがある」と語ったことがありました。
 今回はその言葉を紹介させていただきます。〈たの研〉の代表として強く意識しておきたいと考えています。

 板倉聖宣

 本誌『たのしい授業」は1983年3月に創刊されました。そこで本誌もこの4月には創刊以来11年目を迎えることになります。

 ふつう何事も「長く続くことはいいことだ」と思われているようです。しかし私は必ずしもそうは思いません。

 伝統が長くなると、とかくマンネリになり、創造性が失われる恐れがあります。ときには古い伝統を投げ打つ覚悟をしないと、新しい試みに挑戦することができにくくなる恐れもあります。

〈たのしい授業〉という言葉がごくごく当たり前になれば、本誌の役割の大半は失われたことになるかもしれません。そうなれば私たちはその時代の新しい要求に即した新しい雑誌を出したほうがいいのかも知れません。

 そんなわけで本誌は創刊以来、毎年新学期を迎えるたびごとに、本誌の発行を継続するか否かについて決意を新たにして、継続するなら継続の意志を鮮明にして、古くさくなった伝統を捨てても新しい課題に取り組む覚悟を語るようにしてきました。

 それも本誌の一つの伝統とも言えるわけですが、古い伝統を見直す伝統は引き継いでいきたいと思っています。

 月刊たのしい授業1994年4月号 続刊の言葉から抜粋

 ちょうど〈たの研〉もこれまでの伝統を見直し、新しい取り組みをすすめようという話になっています。
「古い伝統を見直す伝統」という言葉を胸に刻んですすめていきたいと思います。

 読者の皆さんのご意見・ご感想も大きな応援の一つです、気軽に送っていただけたら幸いです。

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「それはバッタじゃなくてキリギリスです!」という言葉/楽しい教材と〈分類〉の見方・考え方/楽しい学習・楽しい学力向上

 子どもの頃から、心動かされるものごとについては本を読んだりすることはあっても、先生に言われたことを真面目に勉強するタイプではなく、植物の名前や昆虫など細かいものを一つ一つ覚えることはしてきませんでした。
 武道にのめり込む様になってさらにその傾向が強くなり、教員試験を受ける頃まで、教科書に出てくる植物は〈ひまわり〉と〈チューリップ〉くらいしか判別できませんでした。
 また都道府県の位置と名前があまり一致せず、大阪と名古屋のどちらが沖縄に近いところにあるのかもよくわかりません。
 どうして私が教員試験に合格できたかというと、あまりにも常識的な問題は出題されることがなかったからです。そして高校レベルの理数系文章読解などは得意だったからです。

 ところで〈ひまわり〉とはどういう植物で〈チューリップ〉とどう違うのか、〈大阪〉はどういうところで〈名古屋〉はどういうところで、それぞれどういう特徴があるのかという様なことは「分類」の問題でもあります。

〈分類〉というのは人間の知的な高まりとともにどんどん複雑になっていきます。

 話は変わるのですけど、全体として繋がりますから安心して読み進めてください、最近、山道に入ってしばらく歩き、車に乗り込むと、こういう生き物が一緒にいました。

 ちょうどバックミラーにくっついたので、背中も腹も一緒に見えておもしろかった、こんな感じ。

 車を停めて植物の枝に戻してあげました、見えますか?
 写真の仲程にいます。

 大きくしてみましょう。

 しばらくするとジャンプして行ってしまったのですけど、それまで、目がこちらを向いているかの様でした。

昆虫の名前

 この昆虫の名前は何か。
 「バッタ」ですか?

 小学校に勤めていた頃、昆虫や植物にとても詳しい年配の先生がいて、こどもたちによく「これは◯◯ではなく◯◯です」と語っていました、たとえば「みなさん、これはチョウチョではなくアゲハチョウです」という様に。

 この昆虫は〈ササキリ〉というのですけど、きっとその先生は
「みなさん、これはバッタに見えるかもしれません。
 でも違いますよ、バッタはこんなに触覚が長くないんです。
 これは実はキリギリスの仲間です」と語ったことでしょう。

 たのしい教育にのめり込んでいく中で、私も都道府県の名前をしっかり覚えたり、植物や虫たちの名前にも興味関心を持つ様になってきました。

 そして広く〈分類〉についてもいろいろ学び考える様になりました。

 分類はとても興味深いテーマです。
 教育の中では先端の分類にもっていくのではなく「人類が獲得してきた科学の歴史・分類の歴史をたどって教えるとよい」というのが、たのしい教育の見方・考え方です。

 はじめのうちはチョウはチョウでよいのです。

 興味関心が高まっていくうちに、アゲハチョウとモンシロチョウとは違うことを学べば良い。
 そしてアゲハチョウの中にも〈シロオビアゲハ〉や〈アオスジアゲハ〉〈ナガサキアゲハ〉という様に分類できるのだということを知ると良い。
 もちろん私たち大人の中にも〈アゲハチョウ〉というのはどういうチョウで〈タテハチョウ〉とどう違うのかわからない人もたくさんいると思います。
 それでもみんな元気に生きています。

 チョウの細かい分類がしっかりできるのは、チョウに興味関心をもってきた人か、テストなどで良い点を取るために頑張った人たちなのです。

 さて〈ササキリ〉は確かに「キリギリスの仲間」です。

 では「ササキリはバッタではなくキリギリスの仲間です」というのは正しいのでしょうか?

 キリギリスは〈バッタ目〉という大きなグループの一つです、だからササキリをバッタと呼んでも間違いではありません。

 だってこんな姿形⬇︎をしている生き物は、チョウでもダンゴムシでもカマキリでもなく、バッタでしょう?

 あまり細々としたことを教えるのではなく、まず「これはチョウとは違ってバッタの仲間です」ということが分かれば良い、〈ゴキブリやテントウムシとは違う〉ことが分かればよいのです。

 繰り返しになるのですけど、そうやって詳しく知りたくなった人たち、あるいはたのしく教えることが可能な場合にもっと詳しく教えていく、それが科学の発展の流れと一致した方法です。

「教科書にあるから教える」とか「正しいことは押し付けてよい」というのではなく「こういう具合に教えていくと子ども達が感動的に学んでいくことができる」という方法をみつけていくことがとても大切なのです。そうでないと「これは◯◯」「あれは◯◯」とどんどん押し付けて教えていくうちに、押し付けられた方は付いて行く気がなくなっていくでしょう。

「コウモリはどうみても〈鳥〉にしか見えないのに、実はねぇ、こうこういう特徴があるでしょう、だから哺乳類の仲間なんだよね、不思議だねぇ」という様に伝えていくいく、そうやって伝えていくことで子ども達が分類に興味を持っていくとしたら素晴らしいことです。

 たのしい分類入門、というプランもできてきそうな予感がしています。

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