板倉聖宣『科学的とはどういうことか』の紹介③/読者の方の要望に答えて

  霊視、透視、予知能力など〈超能力〉についての科学的な見方・考え方〈第三回目〉です、ここで今回の内容は一区切りとします。未読の方は二つ戻って読み始めてください。出典は板倉聖宣著『科学的とはどういうことか』仮説社 です。気に入った方は、ぜひ入手してください。子ども大人を広く対象にした本で、私が学校で子どもたちに紹介した内容の一つです。

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 X線の発見以後、科学界では、じつにたくさんの大発見が報じられた。日本でも、のちに京大教授になった村岡範為馳が「渣蛍線」の発見を報じた。
 蛍の出す光をボール紙で渣すとX線類似の放射線が出るというのである。しかし、その酒蛍線の発見を含めて、大部分の大発見はあとがつづかず、まちがいとされた。そこでレントゲンは、「大発見」のニュースをきくたびに機嫌を悪くするようになったという。
 なぜ、客観性を誇りとする科学者までが、そういうたくさんのまちがった大発見を報ずるのか。それは、たいていの場合、功をあせりすぎるからである。X線発見直後の「大発見」のラッシュがそうである。長岡の水銀還金成功の発表も、ドイツでの水銀還金実験の成功の電報をうけてあせって行なわれたものである。

 昨年の超能力事件で一部の電気通信学者がスプーン曲げ超能力の真実性を支持したのも「外国でそういう研究が進んでいる」という情報にあせった結果と見ることもできるだろう。
 科学者たちも大発見の功をあせりすぎると超能力者同様になるのである。

 19世紀の末、フランスのノーベル賞化学者モアサンは人工ダイヤモンドの製造に成功したと発表したが、これはご本人の没後、そのまちがいのからくりがはっきりした。未亡人の発表によると、「助手がその仕事にうんざりし、先生を喜ばせてやろうと思って実験材料の中にこっそりダイヤモンドの粉をまぜておいた」ことがわかったというのである。科学の世界でも超能力の世界と同じようなインチキの行なわれることもあるわけだ。しかし、だからといって科学は全体としてはごまかされることがない。それは科学には「追試ができなければダメ」という大原則があるからだ。
 ところが「超能力の実験(予言)成功」などという話になると、はじめからまるでそそっかしいから、その真実性をまじめに論じるなんて気にもなれない。
 今度の美和ちゃんの所在透視事件にしてもそうだ。昔から「失せもの占い」というものがいろいろあって、それが見事「当たった」と思われたことが少なくない。

 

 それは、一つには偶然にもよるが、一つには「当たった」と思わせるやり方がうまいからであり、もう一つには下工作があるからである。

 板倉先生の話はここまでにしておきましょう、興味のある方は入手してくださいね。上の本の画像をクリックするとジャンプします。

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板倉聖宣『科学的とはどういうことか』の紹介②/読者の方の要望に応えて

 設立当初から〈たの研/たのしい教育研究所〉を強く応援してくれていた板倉聖宣先生(仮説実験授業研究会初代代表・元文科省教育研究所室長・元科学史学会会長)が「超能力で行方不明の少女の死体が透視されて発見された」というテレビ番組を取りあげて、科学的な見方・考え方をわかりやすく解説してくれている記事の二回目です。

 気に入った方、気になる方はぜひ入手することをすすめます⇩クリック

板倉

 テレビ局側が警察より先に美和ちゃんの死体を発見したことはたしかですが、その前に本当に透視による予言があったのかどうか、その辺のことについては、騒ぎを大きくしたいテレビ局側の証言しかないのだから、信用しなくてもよいわけです)。
 その日の新聞の朝刊のNETテレビの番組欄には、午後7時30分~8時50分「水曜スペシャル-世界初独占実験生放送! 超能力者クロワゼット東京オランダ1万キロ透視成功の瞬間! 謎の難事件死体発掘」とあります。

 しかし、これは美和ちゃんの死体発見のことではなく、別の行方不明事件のことです。大々的に「透視成功」と報じていますが、実際にはこれは全くの不成功に終わっているのです。
 そのほか、生放送でとりあげた透視はすべてへりくつとこじつけの連続で、全くの失敗でした。その失敗をおぎなうかのように、生放送でない(したがって前後関係については全く保証の限りではない)死体発見のニュースが大々的に報ぜられたというわけです(この事件でテレビ局側は警察の捜査活動を妨害していることもあって、「この事件はテレビ局側または超能力者側の犯罪事件ではないか」と疑う人々もいます)。

 次の文章は、この事件のとき『週刊朝日』(1967年5月24日号)の求めに応じて書かれたものです。もっとも、誌面にのった文章は、誌面の都合とかでところどころカットされたので、ここにのせる文章のほうが少し分量が多くなっています。この文章の中には、本文中にすでにとりあげた話が重複して出てくるところもありますが、それもそのままにしておきます。

「超能力の透視などが的中した」という話は昔からたくさんある。そのときはみんな「すごい」「見事だ」「神秘的だ」などといってさわぐ。しかし、そういうニュースもやがて忘れられていく。
 科学の歴史上でもそれと似た話がたくさんある。

 だれかが「大発見した」というニュースが鳴りものいりで宣伝される。ところが、あとがまるで続かないという類の話である。
 たとえば1908年9月18日には、ロンドン大学留学中の小川正孝が原子番号43番の元素を「発見」し、それをニッポニウム(Np)と名づけたが、追試に成功しなかった。〔113番元素「ニホニウム」(Nh)とは別〕。
 また、1924年9月20日の各新聞は当時日本物理学界の最高権威だった長岡半太郎が「水銀を金に変換することに成功した」と大々的に報じた。しかし、これもあとが続かなかった。長岡はその正しさを主張するために10年以上もその研究をつづけたが、ついに人々を納得させることに成功しなかった。
 科学の世界では、あとが続かないと、その報告者がいくら学会の権威でも、その発見の真実性が否定されるようになっている。

「あのときはたしかにうまくいったんだ」と強弁してもダメである。人々の十分納得のいくような形で繰り返し証明されなければ、それは本当のこととされないのだ。
 科学の大発見の中には超能力めいたものもある。

 電波やX線の発見などはその代表的な例といえるだろう。そんな大発見は話をきいただけではなかなか信じられるものではない。

 当時の人たちが「人間のからだがすけて骨だけ見えるって! そんなばかなことがあるものか」と思ったとしても当然のことである。
 ところが、X線の実験は発見者レントゲンの指示通りやると、だれでも再現できることがわかった。そこで、これはあやしげな超能力の発見とはちがうものであることが承認され、いまでは常識となっている。

 前回「みなさんは透視や予知などという超能力を信じていますか?」と問いかけました。

 ここで二回目の同じ質問をさせてください。

 みなさんは透視能力とか予知能力といった〈超能力〉の存在、そういう力をもった〈超能力者〉の存在を信じますか?

ア.超能力は確かにあると信じている

イ.もしかすると超能力というものがあるかもしれないなぁ、と思っている

ウ.超能力はおそらくないと思う

エ.超能力はぜったいにないと思う

  前回の自分の予想と違ったかたは、その理由を教えてください。

 

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板倉聖宣『科学的とはどういうことか』の紹介①/読者の方の要望に応えて

 以前紹介した〈板倉聖宣著『科学的とはどういうことか』仮説社〉について、もう少し中身を知りたいという要望が届いています。有料メルマガでは詳しく紹介したのですけど、このサイトでは別な部分から紹介してみましょう。
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 板倉聖宣先生はおそらく科学の本、科学的な見方考え方に関する本を日本で最も多く書いていると思います。膨大な著書の中で、この『科学的とはどういうことか』は小学校高学年の科学に興味関心を持った子どもたちから中学、高校生、そして大学生大人まで幅広い読者を対象にした科学入門の本です。
 板倉先生の本はどれも読みやすいのですけど、この本は幅広い年齢の読者を想定しているので、その中でも特に読みやすく書かれています。

 メルマガで紹介した内容に少し手を入れて、半分くらい紹介します。

いっきゅう筆

 みなさんは霊視などをはじめとする、いわゆる〈超能力〉を信じているでしょうか。

 ア.超能力は確かにあると信じている

 イ.もしかすると超能力というものがあるかもしれないなぁ、と思っている

 ウ.超能力はおそらくないと思う

 エ.超能力はぜったいにないと思う

   どうしてそう思いましたか?

 霊視のように未来のことを予知するという能力といえば、占いもそうですね。
「A型の方は赤系の服を着けると幸せが訪れます」的な占いが公共のテレビで流れていることには何とかならないのかと思っているのですけど、みなさんはどうでしょう。
 A型の人たちは何千万人もいて、その中にはラッキーなことがあった人もいるため、うやむやになってしまいます。
 けれどたとえば「心臓病で苦しんでいる人たちは赤系の服を着ると良いことが起こります」なんて語る勇気のある占い師はいないでしょう。だってそれは何の根拠もない作り話だからで、医学界からの逆襲にあい、商売が成り立たなくなるでしょう。だからそういうように正否がハッキリするステージに立つことはありません。
 そういうことに目くじらを立てるのは大人気ない、占いなどの未来予知は、遊びとしてつきあえばよい、と思っている人たちは、そういう情報にさらされていく中で本当にそれらを信じてしまい、いろいろなグッズを買ったりしていることを知らないのでしょう。本屋さんに行けば、そういうスピリチュアル系の本がたくさん出版されています、遊びでなく本気で信じている人たちがたくさんいるという証でしょう。
 未来予知を超能力だとすると、科学はかなりの超能力を与えてくれます。〈10年後の5月29日12:00にハレー彗星がどの位置にあるか〉ということも正確に予測することができます。もちろん隕石が衝突して軌道を変えてしまう可能性はゼロではないとはいえ、その計算はかなり的確です。DNA検査で「あなたは20年以内に心臓病を発症する危険が70%あります」という予測ができます。そして「今から脂質を減らして一日一時間程度の運動を取り入れてください」という具体的な解決策を提示することもできます。
 やはり庶民が頼ることができるのは「科学」しかないのだと私は思っています。

 板倉先生が「超能力で行方不明の少女の死体が透視されて発見された」というテレビ番組について書いた話があります。
 メルマガで随分前に板倉先生の「私の新発見と再発見」から《超能力と私》という話を載せました。けっこう反響があったのを覚えています。今回はそれとは別な話です。

 何回かに分けて紹介しましょう。

「超能力であたった」という話 
追試ができなければ科学にはならない

板倉

 スプーン曲げ事件から一年、1976(昭和五十一)年5月のことです。こんどはNETテレビが「超能力で行方不明の少女の死体が透視されて発見された」と大騒ぎを演じました。少女の死体発見というのですから、新聞やテレビもそれをニュースとして流さないわけにはいきません。そこでこのニュースは一度に有名になりました。
 NETといえば朝日新聞社系のテレビ局です。ユリ・ゲラー、スプーン曲げ事件のとき、そのトリックをあばく主役を演じたのは朝日新聞社の「週刊朝日」だったから話は少しややしくなりました。その事件がテレビや新聞紙上をさわがせていたとき、私はちょうど出張中で、その新聞も見ていませんでしたが、研究所に行ってみると、またなにやら超能力の話題で人々がさわいでいます。

 そのうちに『週刊朝日』の記者の人から電話がかかってきました。「これについてどう思うか、意見を書け」というのです。それで、その記者のほか何人かの人からくわしい事情をきき、新聞にのった記事を見ました。それらによって事件のあらましを説明するとこうなります。
 NETテレビのバラエティ番組「水曜スペシャル」では、視聴率を高めるため、オランダの「透視術者」クロワゼット(67歳)を招きました。この超能力者は、とくに行方不明になった少女の行方を透視する能力があるというので、実際にためしてみようというのです。

 そのとき、当時行方不明になっていた美和ちゃんは「自宅近くの湖面、黄色いものが突き出た、ボート置き場の近くに死んでいる」と「透視」され、NET取材班が現地に行って、5月5日午前5時半ごろ、美和ちゃんの死体を発見したというのです(ただし、この話、どこまでが本当の事実なのか保証の限りではありません。

 

続きをおたのしみに!

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手段ではなく目的としての楽しさ/たのしい教育の発想法@板倉聖宣が遺した言葉たち

 ノートパソコンを新調したのでデータのコピーをしています。〈たのしい教育メールマガジン〉の全データを整理していると創刊当時の記事に見入ってしまいました。レイアウトの工夫もほとんどなく、画像も少ない文字中心の直球勝負の内容ですけど、編集した本人の私が時を経て読み行ってしまうほど濃い中身でした。
 今でも書きたいことに溢れているとはいえ、メルマガを配信したばかりのころは「何をおいてもまずこれを」という状態だったのでしょう、私自身が強く影響をうけたものたちが目白押しだったはずです。
 創刊第二号に〈たの研/たのしい教育研究所〉を強く応援してくれた板倉聖宣先生(仮説実験授業研究会初代代表・元文科省教育研究所室長・元科学史学会会長)の「手段でなく目的としての楽しさ」という原稿を紹介しています、その一部を分割して紹介しましょう。

 〈たのしい教育メールマガジン〉を古くから購読してくれている方も、きっと新鮮に読むことができると思います。

 出典は伊良波さんと私が〈たのしい教育〉を学ぶサークルを作ってお互いが気になるレポートを持ってきて読み合わせしていた頃の資料、1992年四條畷小学校の授業公開と研究会の資料集からです。おそらく四條畷の仮説関係のサークルが全国大会などで販売してくれたものだと思うのですけど、文面以外には表紙の画像しか残っておらず、奥付けで特定することができませんでした、ご了承ください。

沖縄の全国大会で板倉先生が講演している時の様子

 

 ※板倉先生の意図が伝わりやすいように私いっきゅうが手を入れています

 

手段でなく目的としての楽しさ

(板倉)

「教育における実験」とはいかなるものでしょう。

 それは、教育の目的において決めなければなりません。
 例えば、ある人たちは「子どもたちが賢くなればよろしい。そのためには、勉強がつまんなくてもかしこくなればよろしい」という考えがあります。
 「もともと勉強というのはつまらないものであるから、それでも耐え忍んで勉強させなければいけない」とこういうふうにいいます。
 またある人は「そうではない、たのしく勉強しなければ勉強というのは身につかないものだ。身につけさせるためにも勉強というのはたのしくしなければいけない」といいます。
 そういう中で、おそらく全ての人が一致することは「子どもたちがかしこくなること」です。「知識が増えいろいろな判断力がつくようになる」ということだと思います。そういうふうにするためにはどうすればいいか、それを実験的に検討するんです。
 ここで思うのは「頭がよくなった」とか「知恵が探くなった」とかいうことはどうやってはかることができるか、どうやったらわかるかということです。これがわからないと、どうやったらよかったのかということが測定できません。

「なんとなく授業をやったら子どもたちがよくなったよ」なんていっても、他の人は認めてくれません。
 大体、先生にはそういう厚かましい人はいない。
 私は、先生はそういう点ではもう少し厚かましくならなければいけないと思うんですが、なかなか自信をもってそういう人はいません。いればいたで、また問題になるんですけれども….

 要するに「子どもたちの知恵が伸びた、賢くなった」ということをその基準を決めて、そして、そのようになるようにするにはどうしたらいいかということを研究していく必要があるんじゃないかと思います。

 その際私は「賢くなるjということと以上に重要なのが「たのしく勉強できる」ことだと考えています。

「たのしく勉強できる」ということは、かしこくなるための手段ではなしに(そのこと自体が大事である)と考えます。

「学校でたのしく勉強できた。そしていろいろなことが身についた」ということでなしに、「勉強というものは楽しいものだ、いろいろな知識を身につけたりしてかしこくなるということは楽しいことだ」ということを身につけることが、社会に出て自分自身で学びとる底力を作る。だとすれば、「たのしく勉強する」ということがひとつの目的ではないか。
 私どもはそのような観点、子どもたちが「勉強がたのしい」「自分たちはかしこくなったと思う」という観点で教育というものを考えていこうと思っています。

前半はここまでにしましょう。

 板倉聖宣先生のものの見方・考え方に興味をもった方は、まとまった一冊を読むことをおすすめします⇨https://amzn.to/3QVGpS1

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