〈不自由〉が広げる自由/寺田の寅さんが伝えてくれたことをもとにして/大切なことは自由・不自由より「たのしく学ぶ」こと/楽しい学習・楽しい学力・楽しい教材・楽しい学力向上・古を訪ね新しきを知る

 私が寺田の寅さんと呼ぶ「寺田寅彦」の文章は読めば読むたびに新しいことを発見して教えられることがたくさん出てきます、今日はその話。

 板倉先生が仮説実験授業を創出した当時の「自由と束縛」の話を読んで腑に落ちたことの一つが「束縛があってこそ自由に考えることができる」という話でした。作文でも〈自由に書いてください〉と言われると何をどう書いてよいか困る子どたちがたくさんでる、〈最近、家族に喜ばれたこと〉という制限を加えると書ける子ども達が増えてくるという話。

 寺田の寅さんはその何十年も前〈ラジオ雑感〉という題して「最近、とても便利なラジオという機械がでてきたけれど…」という流れでにこういう話を書き残してくれています。

 聞きたいと思う音楽放送がたまにあると、その時刻にちょうど来客があって聞かれないような場合がかなりに多い。

 来客がない時はまた何かに紛れて時刻をやり過ごし、結局聞かれない場合もかなりに多い。

 もしも、これが、どこかへ演奏会を聴きに行くのだと、来客は断れるし、仕事は繰合せて、そうして定刻前には何度も時計を見るであろう。

 しかしこれがラジオであるために、こういうことになるのである。

 つまりあまりに事柄が軽便すぎて(※便利になりすぎて)事柄の重大さがなくなるのであろう。

 パチリと一つスウィッチを入れさえすれば、日比谷公会堂の演奏、歌舞伎座の演技が聞かれるからである。昔の山の手の住民が浅草の芝居を見に行くために前夜から徹夜で支度して夜のうちに出かけて行った話と比較してみるとあまりにも大きな時代の推移である。

 しかしそういう昔の人の感じた面白さと、今のラジオを聞く人の面白さとの比較はどうなるかそれは分からない。
 同じようなことは外にもある。教育でも機関が不完全で不便な時代に存外真剣な勉強家が多くて、あまりに軽便に勉強の出来る時代にはまた存外その割に怠け者が多いようなものである。キリシタンを禁じた時代の宗教の熱心さと、信仰の自由を許されて後の信徒の熱心さとの比較でもそうである。自由を許したとて、信徒の数にしても決してそう驚くほど多くはならないのである。

ラジオ雑感1933から

 「便利になれば便利になるほど、その世界に浸る、没頭する人たちが出てくるかとおもうけれど、案外そうでもないものだ」という話は、本がデジタル化されたら便利になってどんどん読書人口が増えていくかと思ったらそうでもなかったという現状にも繋がっているのでしょうか。

 英語の参考書や教材がどんどん増えれば英語に堪能な人たちがどんどん増えていくかというと、福沢諭吉や夏目漱石など不自由な中で努力した人たちの中に熱心に英語学習に取り組む人たちがたくさんいたということなのかもしれません。

 つまり「昔は不便だったけれど、それがよかった」という話です。

 著名人に多い様に感じるのは、このあたりで思考停止してしまう人たちがほとんどだということです。政治家の中にもかつての日本の教育はすばらしかったと主張する人たちもこういうところに力を置いて主張しているのでしょう。

 ここからが大切なところです。

 ではインターネットがなくなればもっと熱心に調べ物をしたり学んだりする人たちが増えていくのか?
 そんなことはない。

 便利な状況というのは広くいろいろな人たちに知識を広げるために大切なこと、で知識が一部の人たちのものではなく一般の人たちに開かれていることは社会全体が発展していく時に決定的に重要なのです。

 膨大な法律の中からピンポイントで、今の自分の状況に関わる法律を探し出すことができる、判例を調べたり法律家の見解を知ることができる。

 机の中に残っていた病院からの処方薬を〈胃薬〉なのか〈抗生剤〉なのかネットで調べることができます、間違って使う危険も捨てる無駄も減ります。

 寺田の寅さんの中には「たのしく学ぶ」という発想がなかったので、それ以上考えをすすめることはなかったのでしょう。
 調べたり読んだり学んだり鑑賞したりetc. 便利な状況が増えていけばよいのではなく、基本になるのは「たのしく学ぶことができる人たちが増えていくこと」だからです。

 それによって、かつては個人の味を削る様な努力が必要とされていたものについても、たとえば徹夜続きで学んだり、借金をして学んだりすることなく、いろいろな人たちが学べる様になります、かつての人たちの努力の分を、さらに深い学びに持っていくこともできる。
 そうすれば社会は停滞せずに発展していけるでしょう。

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「私たちの背中をみて子ども達は何を学ぶか」ー最新メルマガから〈楽しい学習・楽しい学力・楽しい教材・楽しい学力向上〉、ブックレビュー:城山三郎「素直な戦士たち」

「私たちの背中をみて子ども達は何を学ぶか」をテーマに最新メルマガの〈授業の章〉を綴りました、今回はその部分から少し取り出して紹介しましょう。

 親や先生のいう通りそのまま従う子ども達を育てること、作家城山三郎が問いかけた著書のタイトルを借りれば〈素直な戦士たち〉を育てるのではなく、チャレンジングな子ども達が育っていくことが必要だという話。そして子ども達が何か新しいことに挑戦しようとした時、親は教師はどういう様に接していったらよいのか、それが前回のテーマでした。

 今回は、子ども達の眼に映る私たちの後ろ姿について考えてみたいと思います。

 

大人たちの挑戦
 今の社会を実質的に動かしているのは子ども達ではありません、私たち大人です。私たちのが会社や学校で組織の一員として働き、政治家を選び、ほとんどの税金を出してこの社会を支えているのです。
 その私たち大人が〈昨日と同じ今日〉〈去年までと同じ今年〉〈数年前・数十年前と同じこれから〉を生きていくとしたら、日本のこの停滞はそのまま続くことでしょう。
 そういう私たちの後ろ姿を見ていくこどもたちはどういうことを学んでいくでしょう。

 引用は以上

※城山三郎の「素直な戦士たち」は名作です、本の表紙は初めの頃とかなり違ってしまい、大気な違和感を感じます。購入したら表紙は裏返してから読むとよいと思います

 

 大人はいろいろなものごとに縛られていますから、自由気ままにチャレンジとはいきません。けれどそういう中でも自分のオリジナリティーを発揮して、子どもたちの笑顔と元気の向きに、これまでと違う挑戦をしてみる、そういうチャレンジ精神は残しておきたいと思う今日この頃です。

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2023春の講座〈出会いも別れもたのしい教育〉講座事務局より

みなさん、こんにちは。

新しい一年がスタートしましたね。ちらほら桜の花びらが顔を出してきました。
今年もスタッフ一同、「子どもたちの笑顔」をイメージしながら教材づくりなどたのしく進めていきます。今年もよろしくお願いします。

さて、学級の子どもたちと過ごす時間もあと3ヶ月。思い出に残る日々にしていきたいですね。毎年大好評の「春の講座」のお知らせです。

 

ー受講した次の日に同じようにたのしく授業できますー

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 2023年 春の講座
出あい も別れも たのしい教育
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子ども達が笑顔になり「もっとこういう勉強をしたい」と感じてくれる、それがたのしい教育です。別れそして出会いの「春の季節」をたのしい教育で「先生に受け持ってもらってよかった」と感じてもらえる、思い出になる授業をしませんか。それは教師にとっても心に刻まれるものになるはずです。これまでたのしい教育研究所〔RIDE〕の講座に参加したことがない方たちも、クラスでそのまま真似て実施できる様にプログラムしています。
参加人数には限りがあります、お早めにお申し込みください。
 
日時:2023218日(土) 9:20受付/ 9:30~12:50
会場:石川青少年の家 大研修室(建物2階)※高速石川インターより約5分
対象:教育関係者に限らず、たのしい教育に興味関心のある方
 小学生以上なら子どもと一緒の参加も可能です(子どものみの参加はできません)
参加費 大人3000円、RIDE会員(本人のみ)2700円、学生(大・高)2500円 子ども(小・中学生)1600円 子どもは大人とペアで教材1set
★早割り:2/4()17:00まで  大人2700 円,RIDE会員2400,学生2200円、子ども 1400円
持ち物等:筆記用具、マスク、飲み物、教材持ち帰り用のバッグ、動きやすい格好で
  〜 予定プログラム〜
①みんなで仲良くゲームプラン
② パーティーでもりあがる〈クイックちんすこう〉づくり
③出会いと別れを彩る〈ものづくり〉
④思い出にのこる読み語り
⑤いっきゅう先生の〈思い出に残るたのしい教育授業書〉
⑥たのしい教育教材の紹介 他
★ お問合せ 090-1081-7842 (平日 18:00まで)申し込み★★ 下記QRコード、URLからhttps://forms.gle/FaVjS5AwTPfKVebo8
メールからも可能 ⇨office@tanoken.com
件名に「春の講座申し込み」と書き ①名前 ②所属(会社・団体・学校学年など)③ 電話番号(緊急連絡に利用) RIDE会員の方は「RIDE会員」と明記して申し込みください(週1回のメルマガが届いている方は会員です)※受講の可否メールが研究所から3日以内に届きます、届かない場合はお電話ください

講師代表:いっきゅう先生(喜友名 一)たのしい敎育所所長。アメリカNASAと連携し宇宙に滞在中の〈若田光一宇宙飛行士〉と地上を結んだ教育イベントを成功させ、自らも1000人近くの参加者に一斉授業するほか〈たのしい教育〉の第一人者として活躍。マスコミにも多数取り上げられている。学校教師を早期退職し「たのしい教育研究所」を設立。県内だけでなく全国そして海外を飛び回る。国や県との連携、医師会の要請で副読本を作成するなど幅広く活動中。

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寺田の寅さん〈寺田寅彦〉/楽しいブックレビュー 寺田虎彦〈チューインガム〉/もう一人の〈寅さん〉寺田寅彦/楽しい学習・楽しい学力・楽しい教材・楽しい学力向上・私の寅さん

 忙しくなって読書量は激減したとはいえ一時期より明らかに増えてきました。わくわくドキドキ系から科学系哲学系まで幅広くたのしんでいます。気に入りの作家の一人は〈寺田寅彦〉、100年くらい前に活躍した人物ですです。

wikipediaから引用校正してみましょう。https://ja.wikipedia.org/

寺田 寅彦/てらだ とらひこ
1878年明治11年)11月28日1935年昭和10年)12月31日
日本の物理学者随筆家俳人。吉村 冬彦(1922年から使用)、寅日子、牛頓(ニュートン)、藪柑子(やぶこうじ)の筆名でも知られる。高知県出身(出生地は東京市)。

東大物理学科卒。熊本の五高時代、物理学者田丸卓郎と、夏目漱石と出会い、終生この2人を師と仰いだ。

東大入学後、写生文など小品を発表。

以後物理学の研究と並行して吉村冬彦の名で随筆を書いた。

 随筆集に『冬彦集』(1923年)など。

 何ヶ月か前、DVDで〈フーテンの寅さん〉を観た日に〈寺田寅彦随筆集〉を読んだことがあって「あ、寺田寅彦も寅さんだな」と気づいたことがありました。

 時代のもつ背景と写真がとても貴重だった状況が重なって寺田寅彦は難しい人物に映るかもしれません、でも寅彦のエッセイなどに出てくる真剣な遊び心、誠実さ、人好きなところ、不器用なところetc. 私にとって寺田寅彦も親しみを込めて〈寅さん〉です。

 フーテンの寅さんはたくさんの名言を残しています、たとえば

何て言うかな、ほら「あ-生まれて来てよかったなって思うことが何べんかあるだろう」
そのために人間生きてんじゃねえのか

第39作「寅次郎物語」(1987)

 寺田の寅さんも名言をたくさん残しています、有名どころは

天災は忘れた頃にやってくる

 弟子の中谷宇吉郎が朝日新聞 1938年7月9日 第7面に「天災は忘れた頃に来る。 之は寺田寅彦先生が、防災科学を説く時にいつも使われた言葉である。そして之は名言である」と書いてとても有名になりました。

 ということで今回は寺田の寅さんのエッセイの話です。

〈たのしい教育メールマガジン〉に寺田寅彦「茶わくの湯」という作品を詳しく紹介して、その抄編をこのサイトにも載せたことがありました。

たのしい読書案内「科学絵本 茶わんの湯」寺田寅彦 窮理社2,200円 学校の図書館に一冊!

 寺田の寅さんの紙の本もたくさん持っているのですけど、出先とかポッと空いた時間が読書タイムになるので電子書籍Kindleで読むことが多くなります。

 以前紹介した〈茶碗の湯〉のとなりがチューインガムです。

 寺田の寅さんの〈チューインガム〉という短めのエッセイがあって、私の手元にある全集では、先に紹介した〈茶碗の湯〉のとなりに収録されています。

 100年くらい前にすでに日本にチューインガムがあったことに知的好奇心がゆれ、ガムの歴史を調べてみました。それはいずれ書くとして、エッセイはこうはじまります。もうすでにチューインガムに対して良いイメージがないのだろうという書き出しです。

 銀座を歩いていたら、派手な洋装をした若い女が二人、ハイヒールの足並を揃えて遊弋(ゆうよく)していた。そうして二人とも美しい顔をゆがめてチューインガムをニチャニチャ噛みながら白昼の都大路を闊歩(かっぽ)しているのであった。

 

 読んでいくと、寺田の寅さんは、実はアメリカの税関でチューインガムをニチャニチャ噛んでいる職員にカバンの底の底まで徹底的に探られたとのこと。

(アメリカに)上陸早々ホボケンの税関でこのチューインガムの税関吏のためにカバンを底の底まで真に言葉通り徹底的に引っくり返されたのであった。これが、ついちょっと前に港頭にゆる有名な「自由の神像」を拝して来た直後のことなのである。
 カバンは夏目先生からの借りものであった。先生が洋行の際に持って行って帰った記念品で、上面にケー・ナツメと書いてあるのを、新調のズックのカヴァーで包み隠したいかものであった。その中にぎっしり色々の品物をつめ込んであった。細心の工夫によってやっとうまく詰め合わせたものを引っくら返されたのであるから、再び詰めるのがなかなか大変であった。これが自分の室内ならとにかく、税関の広い土間の真中で衆人環視のうちにやるのであるからシャツ一つになる訳にも行かない。実際に大汗をかいて長い時間を費やした後に、やっと無理やりに詰め込む事が出来たのであった。

 カバンに入れたものをひっくり返されて、その後それを詰めようにも詰められなくて焦ったところも目に浮かんでくる様です、ちなみに私も同じような経験が何回かあります。

 日本への土産にドイツやイギリスで買って来たつまらない雑品に一つ一つ高い税をかけられた。その間に我が親愛なる税関吏はみなくチューインガムをニチャニチャ噛みながら品物を丹念に引出し引っくら返しては帳面に記入するのであった。アメリカ人にしても特別に長い方に属するかと思われるこの税関吏の顔は、チューインガムを歯と歯の間に引延ばすアクションのために一層長く見えるのであった。

 顔の長いその職員の顔がチューインガムを噛む仕草でさらに長く見えたというところなど、笑えます。

 寺田の寅さんはアメリカの入管でよほど頭にきたのでしょう、「日本人もチューインガムの流行で生理的心理的にアメリカ人に近付いていってしまい、日本魂も消滅してしまうのではないか」と心配したりします、おいおい。

 チューインガムの流行常用によってその歯噛みの動作の反応作用から日本人が生理的並びに心理的にだんだんアメリカ人のようなものに接近して行くというようなことはあり得ないものか。そういう日が来れば我国の俳諧は滅亡するであろう。

 そうして同時に日本魂もことごとく消滅してしまうであろう。こんな極端な取越苦労のようなことまで考えさせられるのである。

 日本の著名な科学者の中でとてもよい文章を綴る人をあげると、寺田の寅さんはそのトップ集団にいます。いろいろな人たちが寅さんの文章に親しんでくれることを期待しています。

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