言葉の重要性は力説してもしすぎることはありません。安易に使う言葉が相手に誤解を生じさせ、関係がこじれてしまうこともあります。「こう思っていたのに違うの?」ということは小さなすれ違いで済むこともあれば、大きな問題に発展することもあるでしょう。
言葉の感覚に敏感な子ども達を育てることも教育の大切な目標の一つでしょう。そしてそれは〈たのしい教育〉の大切な内容の一つです。
たとえば一流の科学者たちは、普通の人々の感覚と科学の言葉の感覚がずれている時、何度も丁寧に説明を重ねてきました。実験を見せてきました。それがふに落ちる様に努力してきました。
ほぼ見ないテレビの中で私が唯一といっていいほど毎週みる番組があって、その中でとても気になる内容がありました。批判をするのが趣旨の内容ではないので、どの番組で誰が言ったのかということはあえて付さないこととします。
気になったのはある研究者が発した次の言葉です。
ゼリーは見た感じ固まっている様に見えるじゃないですか。
でも実はあれ、固まっていないんですね。
ほとんど液体みたいな状態なんです。
※
ゼリーというはこういうデザートですね。
どこをみて〈実はあれ、固まっていないんですね〉と言い切るのでしょう。
いや、実はその人がいいたいこともわかるんです、おそらくこういうことでしょう。
理科で学ぶように物質の状態には〈個体・液体・気体〉の三つの状態があります。とはいえ私たちの身の回りを見渡すと、ハチミツの様に〈ギリギリ液体と表現してよいかもしれない〉と思える物質や、スライムの様に〈液体と言い切るには固いよね〉とか豆腐の様に〈個体と呼ぶにはもろすぎるな〉という物質など、いろいろありますね。
そういう個体と液体の中間にある様に物質は水の分子が物質の中にたっぷりとふくまれています。
その研究者は「ゼリーの中には水がとてもたっぷりあるから個体とはいえない」という様な意味で「でも実はあれ、固まっていないんです」と語ったのでしょう。
というところまでくみとっておいた上で、考えてみましょう。
「固まっていないんです」という言葉をゼリーに使ってよいのでしょうか?
ゼリーを作る過程でトロトロの状態になりますから、その状態をみて「これ、まだ固まっていないね」と表現することはあっても、出来上がったゼリーを型から出したりする時に「これまだ固まっていないね」と表現する人はいないでしょう。
固まっていない状態ならゼリーの形として取り出すことはできません。
〈ジェル状〉とか〈ゲル状〉とかいう言葉があります、それらもゼリーも同じ語源で、もともとはフランス語の「gelée(ジュレ)」に由来しています。
液体のジュースなどを凍らせていくと、カチカチに固まる前のシャリシャリでかきまぜることのできる状態がありますね、それを表していた言葉です。
調べてみるとこうありました。
「gelée(ジュレ)」は、元々は「凍る」という意味の動詞「geler(ジュレ)」から派生した名詞で、果物のジュースを固めて作るジュレ(ゼリー)のことを指していました
この「gelée(ジュレ)」が英語に取り入れられ、さらに広まって「gel(ゲル)」や「jelly(ジェリー)」の単語になりました。https://enpitsuart.com/gelee/
私たちはジュースなどと違って固まってきたことを表す言葉としてジュレ・ゼリーという言葉を使ってきたのです。
それを「あれは固まってはいない」と言ってよいのでしょうか?
みなさんが子どもならそう説明する先生に「はい、先生のいうことは正しいです、わかりました」というでしょうか?
私は「この先生はへんだな」と思います。
「先生、固まっていないならどうして固まりのまま取り出せるの?」と質問するでしょう。
ああだこうだと説明されても「ほとんど液体っていうなら、やわらかいスライムとかハチミツの状態をいうのだと思うんだけど」と考えるでしょう。
言葉を大切にする教育は、国語という教科によらず、いろいろな教科ジャンルに広がっていくでしょう。
みなさんが「ふにおちない」と感じる表現があったら教えてくださいね。
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